2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
ドイツのザールラント大学とドイツのベルリン国立博物館群に所属する研究者らがPNAS誌で発表した論文「Humans 40,000 y ago developed a system of conventional signs」は、旧石器時代の記号が初期の文字に匹敵する情報量を持っていたことを明らかにした研究報告だ。
4万年以上前の旧石器時代の人類は、すでに道具や彫刻に記号を刻み込んでいた。これらの記号は単なる模様ではなく、数万年後の紀元前約3500〜3350年にメソポタミアで生まれた最初期の原楔形文字に匹敵するほどの複雑さと情報量を持っていたという。
ドイツ南西部のシュヴァーベンジュラ山脈にある洞窟群などでは、3万4000年から4万3000年前にさかのぼる遺物が多数発見されている。例えば、マンモスの牙で作られた彫像や、ライオンと人間の混合生物が描かれた象牙の板には、線や切れ込み、点、十字といった記号が意図的かつ反復的に刻まれている。研究チームは、これらが当時の人類が情報を伝達し、思考を記録するための初期の記号システムだったと指摘している。
研究の過程で、記号の意味そのものを解読しようとするのではなく、約260点の遺物に残された3000以上の記号をデジタル化。人間の目では見落としてしまうような複雑な規則性をあぶり出すため、統計モデルと機械学習の分類アルゴリズムを活用しながら、その並び方のパターンを分析した。
結果、旧石器時代の記号は現代の文字のように話し言葉をそのまま表しているわけではないものの、情報密度を示す指標においては、最初期の原楔形文字と統計的にほぼ同じレベルに達していることが判明した。最初期の原楔形文字もまた、旧石器時代の記号と同じように特定の記号を何度も繰り返す特徴を持っていた。
ただし、この旧石器時代の記号体系が原楔形文字と同じ機能を果たしていたかどうかを証明することは困難、あるいは不可能だと認めている。
また両者の違いとして、メソポタミアの原楔形文字はその後約1000年でシュメール語を表す本格的な文字体系へと発展した一方、旧石器時代の記号体系は約1万年にわたり情報密度が安定したまま変化せず、やがて消滅した。
Source and Image Credits: C. Bentz, & E. Dutkiewicz, Humans 40,000 y ago developed a system of conventional signs, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123(9)e2520385123, https://doi.org/10.1073/pnas.2520385123(2026).
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