2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその“AI編”として、人工知能に特化し、世界中の興味深い論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X: @shiropen2
ドイツのHaelmholtz-Zentrum Berlinや英エディンバラ大学、英リヴァプール・ジョン・ムーア大学などに所属する研究者がPNAS誌で発表した論文「Identifying variation in dinosaur footprints and classifying problematic specimens via unbiased unsupervised machine learning」は、人間による事前のラベル付けなしに訓練したAIを用い、恐竜の足跡を分析した研究報告だ。
恐竜の足跡化石は骨格化石よりも数が多く、古代の生物がどこにいつ存在し、どのように動いていたかを知る貴重な手掛かりとなる。しかし、足跡からその持ち主を特定するのは容易ではない。
例えば、スコットランド・スカイ島で見つかったジュラ紀中期(約1.7憶年前)の3本指の足跡が鳥脚類のものなのか獣脚類なのかという問題が議論されている。また大きな議論になってきたのが、三畳紀後期〜ジュラ紀前期(約2.3億〜1.7億年前)の鳥そっくりの足跡が本当に鳥のものなのかだ。もし鳥だとすれば、これまで知られている最古の鳥の骨格(約1.5億年前の始祖鳥など)よりも前に鳥がいたことになる。
近年この分類に機械学習が応用されてきた。しかし、ニューラルネットワークを訓練する際、人間の研究者があらかじめ「これは獣脚類」「これは鳥脚類」といったラベルを付与する必要があるため限界があった。その判定自体が誤っていれば、学習結果にも偏りが生じてしまうからだ。
そこで研究チームは、「β-VAE」と呼ばれる教師なし学習の手法を、1974点の恐竜足跡シルエットのデータベースに適用した。ポイントは、AIにはどの足跡がどのグループに属するかという情報が“一切与えられていない”ということだ。
そのためAIは、ラベルに頼るのではなく、足跡の特徴から区別しなければならない。結果、足跡を区別する8つの特徴パターンを自ら発見した。具体的には、全体的な荷重と形状(接地面積の量)、趾(あしゆび)の開き、趾の付着部、踵(かかと)の荷重、趾と踵の強調度(どちらがより明瞭に残っているか)、荷重位置、踵の位置、左右の荷重バランスだ。
このAIの基準で足跡を分類したところ、人間の専門家たちのこれまでの判断と80〜93%という高い確率で一致し、性能の高さを示した。長年議論されていたスコットランド・スカイ島のジュラ紀中期の足跡を分析したところ、大部分が獣脚類の領域に位置したものの、一部は鳥脚類の範囲と重なった。
また、三畳紀後期〜ジュラ紀前期にかけての鳥に似た足跡は、化石鳥類や現生鳥類のグループに近い位置にまとまり、非鳥型獣脚類からは離れていた。この結果だけを見れば、鳥類が三畳紀末の大量絶滅よりも前にすでに存在していた可能性を示している。
ただし、鳥によく似た足の構造をもつ非鳥型恐竜が作った足跡かもしれないし、湿った地面の性質によってたまたま鳥のような形になった可能性も否定できない。この謎を決定的に解くには、同時代の鳥類の骨格化石を見つける必要があると研究チームは結論づけている。
研究チームは、この解析プロセスを誰でも利用できるようにアプリ「DinoTracker」とソースコードを公開しており、現場で発見された足跡のシルエットを既存の膨大なデータベースと客観的に比較することを可能にしている。
Source and Image Credits: G. Hartmann,T. Blakesley,P.E. dePolo, & S.L. Brusatte, Identifying variation in dinosaur footprints and classifying problematic specimens via unbiased unsupervised machine learning, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123(5)e2527222122, https://doi.org/10.1073/pnas.2527222122(2026).
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