ここで重要になるのが「AIと人間のコスト比較」です。
アメリカではビッグテックを中心に人件費が上昇傾向にあります。コロナ禍の2021年から2022年にかけてはIT人材の採用競争が激化し、エンジニアの年収が急上昇しました。その反動もあり、企業は「人間を採用するよりAIを使った方が安いのではないか」という判断をするようになっています。
日本でも状況は似ています。新卒初任給の見直しが進む一方で、採用人数の減少や採用停止が起き始めています。企業は人材コストを慎重に見直し始めています。
しかし、もしAI利用料金が見直されるとどうなるでしょうか。AIの価格が上昇した場合、「AIより人間の方が安い」業務が出てくる可能性があります。例えば一定の判断を伴う事務処理やデータ確認など、完全自動化が難しい業務では、人間の方がコスト効率が良いケースも出てくるでしょう。
つまり、AI化の流れは一直線ではなく、ある時点で揺り戻しが起きる可能性があります。
一方で現在、多くの企業でAIが業務フローに組み込まれ始めています。しかし、その利用状況を正確に把握している企業は多くありません。このような状況で、企業の情報システム部門にとって重要になるのは「AI依存の可視化」です。
例えば次のような問いに答えられる企業はどれくらいあるでしょうか。
これらを把握していなければ、AIサービスの価格変更や利用制限が起きたとき、業務がその影響を受ける可能性があります。
AIを含む業務設計の見直しに当たっては、注意点もあります。それは、AI利用が広がるほど、人間の仕事そのものが再定義されるという点です。AIは多くの作業を高速化しますが、同時に「何をAIに任せ、どこから人間が判断するのか」という新しい境界線を生み出します。
例えば文章生成やコード生成でも、最終的な品質判断や責任の所在は依然として人間に残ります。AIが出した結果をそのまま採用するのではなく、「どこまで信用するか」「どこで人間がレビューするか」という設計が必要になります。
この問題は単なるツール導入ではなく業務設計の問題です。AIが出力した結果を人間がどう扱うのか、どの段階でレビューするのか、どの業務はAI前提で設計し、どの業務は人間中心で残すのか。こうした判断は現場の担当者任せにして解決するものではありません。組織としてルールを定め、業務フローを再設計する必要があります。
現在のAIブームは、技術革新と巨大資本の競争が重なった結果です。しかし、全ての技術バブルがそうであったように、いずれ市場は落ち着き、現実的なコスト構造へと移行していくことが予想されます。
そのとき企業に求められる備えは、「AIを使うかどうか」だけではなく、「AIが使えなくなった場合でも業務が回る設計」を考えることです。AIは強力なツールですが、現状は企業活動の全てを依存させるべき基盤ではありません。
情シスの役割はAI導入を推進することだけではなく、AI依存のリスクを管理することでもあります。AIが止まったときに業務が止まらない仕組みを作ること。それこそが、AIバブル後の世界に備える最も現実的なアプローチです。
そして最も重要なのは、AIを「魔法の道具」として扱わないことです。AIは企業の競争力を高める可能性を持っていますが、それは適切な業務設計と組織設計があって初めて機能します。AIが安いから使うのではなく、AIを使うことでどの業務をどう変えるのかを設計すること。そこまで踏み込むことができる企業だけが、AIバブルの後でも本当に強くなるといえるでしょう。
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