2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
大阪公立大学大学院の研究グループが学術誌「Molecular Nutrition & Food Research」で発表した論文「Wheat Flour Intake Promotes Weight Gain and Metabolic Changes in Mice」は、主食として日常的に食べられているパンや小麦粉、米粉への偏った摂取が、食べ過ぎていなくても体重増加や代謝異常を引き起こす可能性をマウス実験で示した研究報告だ。
これまで肥満の主な原因としては高脂質な食事が注目されてきたが、パンや麺類など日常的に主食として食べられている高炭水化物食品が肥満や代謝に及ぼす影響については、意外にも検証例が限られていた。「パンは太りやすい」「炭水化物は控えるべき」といった通説は広く知られているが、それが食品そのものの性質によるものなのか、嗜好性や食行動の変化によるものなのかは、これまで明確ではなかった。
そこで研究グループは、栄養バランスの整った標準飼料に加えて、パンや小麦粉、米粉を自由に選んで食べられるようにした環境をマウスに用意し、体重変化、エネルギー消費量、血液中の代謝物、肝臓における遺伝子の働きを解析した。
その結果、マウスはパンや小麦粉を好んで食べるようになり、栄養バランスの整った標準飼料はほとんど口にしなくなった。そして、体重も脂肪の量も明らかに増加した。摂取カロリーの合計が大きく増えていなくても、小麦粉を摂取した場合は体重が増加する可能性が示唆された。
食べ過ぎていないのになぜ太るのか。そのメカニズムを探るため呼気を調べてエネルギーの使われ方を測定する検査を行ったところ、体重増加の背景には食べ過ぎではなくエネルギー消費量の低下が示された。
実際、血液中では脂肪酸が増え必須アミノ酸が減っており、肝臓には脂肪がたまり、脂肪酸を作ったり脂質を運んだりする遺伝子の働きも活発になっていた。
一方で、小麦粉の摂取を中止すると体重増加や代謝異常は速やかに改善した。偏った食生活からバランスのとれた食事に切り替えれば、体重は比較的容易にコントロールできる可能性が示唆された。
一方、同じ実験を米粉で行ったところ小麦粉と同様に体重増加が生じており、これは小麦特有の現象ではなく、高炭水化物食品に偏って食べること自体が体重増加を招いている可能性も見込まれる。
論文筆頭著者の松村成暢准教授は、「特定の食品が悪いのではなく、おいしすぎる食品に偏ることが、代謝や体重に影響を与える可能性がある」とプレスリリース(報道発表)でコメントしている。
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