このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米エロン大学や米デューク大学などに所属する研究者らが発表した論文「Energy expenditure and obesity across the economic spectrum」は、肥満の増加は運動不足と過食の両方が原因とされてきたが、どちらがより重要な要因なのかを調査した研究報告だ。
研究チームは、アフリカの狩猟採集民や牧畜民から、米国や欧州の都市住民まで、世界34集団4213人の成人を対象に調査を実施。エネルギー消費量の測定には、最も正確とされる二重標識水法を用い、7〜14日間にわたって総エネルギー消費量や体脂肪率、BMIなどの肥満指標を記録した。
調査の結果、経済発展が進んだ社会ほど体重とBMI、体脂肪率が高かった。しかし意外なことに、総エネルギー消費量もまた経済発展とともに増加していた。先進国の人々は運動不足どころか、むしろ多くのカロリーを消費していたのだ。
これは主に体格が大きいためだが、体格の影響を統計的に除去しても、総エネルギー消費量の減少はわずか6%程度に過ぎなかった。また、この減少は主に基礎代謝量の低下によるもので、身体活動によるエネルギー消費量は狩猟採集民も都市住民もほとんど変わらなかった。アフリカで獲物を追いかける狩猟民と、オフィスで働く人の活動エネルギー消費量がほぼ同じだったのだ。
研究チームがエネルギー消費量と肥満の関係を詳しく分析すると、消費量の違いで説明できる肥満の増加はわずか10分の1程度だったという。
では何が肥満の原因なのか。研究チームは、エネルギー摂取、つまり食事に注目した。調査期間中、参加者の体重はほぼ安定していたことから、エネルギー消費量は摂取量とほぼ等しいと考えられる。経済発展した社会では絶対的なエネルギー消費量が多いことから、摂取カロリーも多いことを示唆する。
特に「超加工食品」の摂取割合と体脂肪率の関係に注目した。超加工食品は、インスタント麺やスナック菓子、清涼飲料水などがその代表例だ。超加工食品は消化吸収が良すぎて、同じカロリーでも体に吸収される割合が高い。さらに満腹感を感じにくく、結果的につい食べる量が増えてしまう。25集団について分析したところ、食事に占める超加工食品の割合が高いほど、体脂肪率も高いことが明らかになった。
Source and Image Credits: A. McGrosky,A. Luke,L. Arab,K. Bedu-Addo,A.G. Bonomi,P. Bovet,S. Brage,M.S. Buchowski,N. Butte,S.G. Camps,R. Casper,D.K. Cummings,S. Krupa Das,S. Deb,L.R. Dugas,U. Ekelund,T. Forrester,B.W. Fudge,M. Gillingham, […] & The IAEA DLW Database Consortium, Energy expenditure and obesity across the economic spectrum, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 122(29)e2420902122, https://doi.org/10.1073/pnas.2420902122(2025).
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