連載

袂を分かつインテルのモバイルアーキテクチャ元麻布春男のWatchTower

Intelのモバイル/携帯デバイス分野の次世代プラットフォームについて、いくつか進展があったので、その動きを整理しよう。

次世代プラットフォームのMedfieldを公式にアナウンス

 5月12日と13日の両日、IntelはInvestor Meeting 2009を開催した。その名前の通り、投資家向けのイベントであり、技術や製品よりもビジネスにフォーカスが置かれたものだ。登壇者はポール・オッテリーニ社長兼CEOと9名の副社長で、内容的には同社の主力事業であるx86プロセッサー関連より、今後の成長が見込まれる分野にウエイトを置いたものであった。これはブレークアウトセッションが、Ultra Mobile、組み込み、家電の3つの分野に関するものであったことからもうかがえる。

 中でも注目されるのは、2010年に投入されるMoorestown(開発コード名)の次の世代となるプラットフォーム、Medfield(開発コード名)について公式な紹介があったことだろう。2011年に登場するMedfieldは、32ナノメートルプロセスルールを用いたSOCとされる。つまり、MoorestownまでのCPUとチップセットの構成ではなく、1チップ化される。これにより基板面積は、クレジットカード大のMoorestownよりさらに縮小され、メインストリームのスマートフォンに収まるサイズになるという。

Medfieldの登場後も現行のMenlowが継続となっているのは、この市場の製品寿命がPC市場とは違うことを示している(写真=左)。1チップ化されるMedfieldでは、基板サイズがクレジットカードの半分ほどになる(写真=右)

 1チップ化されるMedfieldがどのようなものになるのか。Intelはまだ明らかにしていないが、おそらく機能的には2チップ構成のMoorestownと、それほどかけ離れたものにはならないだろう。スマートフォンに求められる機能が1~2年で劇的に変化するとは考えにくいし、ソフトウェアの継続性を無視するとも思えないからだ。

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 そのMoorestownだが、チップセット側が備えるインタフェースにCE ATAやSDIOポート、さらにはNANDコントローラーなど、PCではあまり見かけないものが多数見られる。プラットフォーム的にも、MIDやスマートフォンにシフトしているのは明らかだ。SOCとなるMedfieldは、より一層、この傾向を強くしていくだろう。現時点で、Intelが大きなシェアを持っていない分野で成功することこそが、そもそもAtomを開発した目的であり、それがIntelにさらなる成長をもたらすことにつながるからだ。

Moorestownは、MID/ハイエンドスマートフォン向けのプラットフォームだ

Netbookとは違う道を歩むことになるAtom

Intelのモバイルアーキテクチャは、今後2つの道に分かれて進化していく

 PCに使われるCoreブランドのCPUにせよ、MIDや組み込み用途に使われるAtomブランドのCPUにしても、高性能・低消費電力を目指すという点で変わりはない。しかし、どちらにウエイトを置くかという点で、違いがある。CoreブランドのCPUは、消費電力を守りながら、より一層の高性能化と高機能化を目指す(ウエイトは性能と機能)のに対し、AtomブランドのCPUは性能を改善しながらも、劇的な消費電力の削減を狙う(ウエイトは低消費電力)。

 現在Netbookに使われているAtom N系のCPUは、最初の世代のAtomだが、最初であるがゆえに一般的なPC用のCPUにも近い。しかし、世代が進むにつれてAtomはよりプラットフォームの小型化と低消費電力化へシフトしていき、Netbookとは方向性が異なってくるだろう。Netbookの売れ筋が、最初の7型から8.9型、そして10.1型と液晶ディスプレイのサイズが大型化して行っていることでも明らかなように、Netbookのユーザーは必ずしも小型化を求めていない。小型化が求められないプラットフォームに、小型化を追求するCPUはミスマッチだ。

 Intelは、間もなくコンシューマー向けに低価格の超低電圧版CPU搭載プラットフォーム(CULV:Consumer Ultra Low Voltag)を立ち上げる。すでにそれを採用したPCを、Acer(Timeline)やMSI(X340シリーズ)が発表している。長期的にはこれらのULV版CPUがNetbookにも使われることになる可能性はある。あるいは、CULVがプラットフォームごとNetbookを置き換えることだって考えられる。Netbook購入者のほとんどは、価格が同じであればCULV製品を購入すると思われるからだ。

Acerno「Timeline」(写真=左)とMSIの「X-Slim Series X340」(写真=右)

 唯一取り残されるのは、純粋に超小型のPCが欲しいという限られたユーザーである。AtomがMIDやスマートフォンに向かい、CULVがNetbookの主役となれば、超小型のPCに使えるCPUがなくなる。だが、完全に道が閉ざされているわけではない。IntelはAtomコアを用いたカスタムCPUをカスタマーがデザインできるようTSMCと提携を行った。十分な数が見込めると判断すれば、AtomコアにPC互換のペリフェラルを集積したカスタムチップをPCベンダーが設計できる。設計の自由度が増すことで、これまで以上にユニークな超小型PCが登場することも、可能性としてはありえる。

 いずれにしても、今後世代が進むに連れて、CoreブランドのCPUと、AtomブランドのCPUでは、その性格の違いが際だってくるだろう。逆にいえば、そうでなければ、わざわざIntelが新しいマイクロアーキテクチャを開発した意義が失われる。Atomの開発目的は、自社のx86プロセッサから市場を奪うことではなく、他社のアーキテクチャで占められている非PC分野へ進出することにあるからだ。もちろん、だからといって、その途上で偶然にも掘り出したNetbookという鉱脈を捨てるつもりはサラサラないだろうが、それがAtomを開発するための主目的でないことは間違いない。

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