モバイル向け新Core iシリーズのCPU性能をじっくり調べてみた:「VAIO F」2010年春モデル3台で検証(4/4 ページ)
2010年PC春モデルではモバイル向け新Core iシリーズの積極採用が目立つが、従来のCPUとは何が違うのか? 多岐に渡るラインアップを整理し、その実力をチェックする。
マルチスレッド処理では既存のCore i7(Clarksfield)が強い
アプリケーションの中でも得意不得意が分かれる特殊な用途のテストを見てみよう。まずは3D描画性能だが、CPUだけでなくGPUの影響も大きい。定番のテストをいくつか実施しているが、今回入手できたCore i3/i5/i7搭載のVAIO Fは、いずれも外部GPUを備えており、CPU統合のGPUは未使用だ。その外部GPUも統一されていないため、あくまでも「この組み合わせのノートPCでこのくらい描画性能」という参考として見てほしい。
なお、3DMark06のCPUテストはAIによる経路探索をマルチスレッドで行う内容で、GPU性能は影響しない。また、3DMark VantageのCPUテストには、AIの経路探索と物理シミュレーションが含まれ、いずれもマルチスレッド対応となっている。後者はNVIDIA GPUに含まれるAGEIA PhysXアクセラレータに対応しているが、この機能は使わないように設定した。これらのスコアからは、マルチスレッド性能ではやはりクアッドコアのCore i7に及ばないことが分かる。
GPUも含めた3DMark06と3DMark Vantageのスコアを評価すると、やはり本格的な3Dゲームをプレイするには力不足といえる。今回は外部GPU(GeForce GT 330M+1Gバイトメモリ/GeForce 310M+512Mバイトメモリ)を搭載したVAIO Fでテストしてこのスコアなので、CPUに統合されたGPUを使ったノートPCでは、グラフィックス性能がもっと落ち込む。インテルのCPUやチップセットに統合されたグラフィックス機能は、依然としてゲーム用途では厳しい状況だ。
バイオハザード5はマルチスレッド処理に最適化されており、比較的CPUの比重が高いタイトルとして知られているが、さすがにCore i5/Core i3モデルのスコアでは性能が不足している。Core i7モデルはGPUにGeForce GT 330Mを採用し、1Gバイトの専用グラフィックスメモリを備えていることもあり、グラフィックス品質を落とすことで一通りはプレイできるレベルのスコアが出た。
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3のスコアは、旧世代ノートPCを除けば、どれも非常に優秀だ。FINAL FANTASY XI程度のグラフィックスのゲームならば、快適にプレイできると思われる。
コア数が多いほど有利なテストでもCore i5が粘る
CINEBENCH R10によるレンダリング性能、TMPGEnc 4.0 XPressによる動画エンコードのテストも行った。
CINEBENCH R10は、MAXONの3DCGソフト「CINEMA 4D」をベースにしたベンチマークテストだ。CINEMA 4Dのエンジンを利用したレンダリング性能を比較した。1スレッドのみを利用する「1CPU」ではCore i7とCore i5でほとんど同じスコアだが、CPUが同時処理できるスレッドをすべて使える「xCPU」では22%ほどCore i7のほうが速い。マルチスレッド処理に最適化されており、クアッドコアのほうが断然有利なテストであることを考えれば、むしろCore i5がこれだけ迫っているのは立派といったほうがよいだろうか。
同じくクアッドコアが断然有利だとして知られるのが動画のエンコードだ。TMPGEnc 4.0 XPressを使い、1280×720ドット(約1分)のAVCHDファイルを2つ連結し、512×288ドット(1Mbps)/H.264(Mainconceptコーデック)のMP4ファイルに変換にするのにかかった時間を記載している。結果はご覧の通りでグレードの序列できれいに並んでいる。旧世代ノートが大きく遅れをとったのは、SSSE3までの対応であることも大きいと思われる。
システム全体の省電力にも貢献
一応、消費電力も測定してみた。アイドル時、低負荷時(WebブラウザでFlashムービー再生)、高負荷時(TMPGEnc 4.0 XPressで動画エンコード)と、それぞれの状態でシステム全体の消費電力をワットチェッカーで測定している。
液晶ディスプレイのグレードなど、性能に反映されない部分でも構成が違うので、あまりはっきりしたことはいえないが、もろもろの要因を考慮しても、新Core iシリーズ(Arrandale)搭載ノートPCは、総じて消費電力が低い傾向にある。
ターボブーストによるメリハリのある性能が光るCore i5
今回は別途GPUを搭載したVAIO Fシリーズでの比較だったため、CPU性能にフォーカスした検証になったが、新Core iシリーズ(Arrandale)、特にCore i5の性能はなかなかメリハリが効いている。
特にCore i5(Arrandale)は、デュアルコアの割にマルチスレッドに最適化されたアプリケーションでも健闘しているのが印象的だ。Core i7(Clarksfield)搭載ノートPCのほうが上位グレードのGPUを備えているにもかかわらず、マルチスレッドに最適化されたテストを含め、多くのテストでCore i7とCore i5の差よりもCore i5とCore i3の差が大きかった。
理由としては、TBの挙動が影響していると思われる。前半部で述べたようにTBはアクティブなコアの数によって上限が決まっている。Core i7-720QMは4コアで133MHz、2コアで400MHzアップするのに対し、Core i5-520Mは2コアで266MHzアップする。
これだけ見るとCore i7のほうがアップ率が大きいように見えるが、エンコードやレンダリングを行う際のアクティブコアは、Core i7は4コア、Core i5では2コアであり、こういった負荷の高いアプリケーションを基準に見ると、アップ率は逆転するわけだ。2コアしかないだけに作動条件が緩く、マルチスレッドに最適化されたソフトではHTも有効になるのだから、クアッドコアよりも性能が底上げされる感覚はより強い。また、Core i3-330MはTBに対応しないため、ここで差が付いている。
TBの作動条件は温度や電力にも左右されるが、今回テストしたVAIO FではCPU-Zで確認する限り、高負荷時でもほぼ常時2.66GHzで動作していたので、電力の上限にはかなり余裕があると思われる。同じ新Core iシリーズ(Arrandale)でもTBの上昇幅が大きい上位クラスのCore i7-620Mなどを搭載する場合は、各メーカーの放熱設計能力も重要になってくるかもしれない。
また、システムレベルの消費電力も優秀といえる結果だった。今回は通常電圧版CPUでのテストだったが、超低電圧版Core iシリーズを採用したモバイルノートPCを含め、これから登場してくる製品の仕上がりも楽しみだ。
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