「OS X Mountain Lion」は絶好調なMacをさらに加速させる:林信行が語る“攻め”の新OS(2/2 ページ)
Macの次期OS「OS X Mountain Lion」が、2012年夏ごろに登場する。アップルがOS X Lionで示した新しい方向性に向かって思いっきりアクセルを踏み、一気に他を畳み掛けるようなアップデートだ。
巨大市場、中国にもついに本腰
このように成功している既存の市場でも、休むことなく、さらに先に向かってアクセルを踏むアップルのMac戦略だが、同社はそれと並行して、今後、爆発的勢いで成長しそうな中国市場にも本腰を入れてアクセルを踏み始めた。
OS X Mountain Lionでは、中国市場向けの機能改善も大きなポイントの1つとなっている。具体的にはピンイン方式での文字入力を、変換候補精度の向上、自動修正、キーボード切り替え不要での英語入力の3つの方法で改善し、手書き文字認識の機能も大幅に向上させている。
さらに検索でBaidu、コンテンツ共有用のマイクロブログとしてSina weibo、動画共有でYouku、Tudou、そしてメール/アドレス帳、カレンダーデータの連携でQQ、126.com、163.comといった具合に、中国市場の人気ネットサービスにも対応と、これまでただ1つのグローバル仕様にこだわり続けてきた同社が、方向転換をして、爆発的な人口を持つ中国の特殊性に合わせた最適化を始めている。
すでにアップルは香港の1店舗を数えず、北京や上海など本国だけでも合計5店舗のアップル直営店を構えており、iPhone 4Sの中国発売時には、これらのショップの前に大規模な暴動かと思わせるほど大勢の人波が押し寄せた。あの勢いのほんの一部がMacに流れるだけでも、今後Macの売れ行きは、さらに加速がかかることが期待できそうだ。
iOS連携以外で注目したい4つのポイント
最後にいくつか、今回発表された10の機能の中から、すでに触れたiCloudを通してのiOS機器との連携以外で、筆者が特に注目している点をいくつか解説したい。
まず1つめは、アップルが、ついにiOSに加えMacでもTwitterを標準でサポートしたことだ。iOSでは、ただコンテンツを共有するだけだったが、OS X Mountain Lionでは、メンションやダイレクトメッセージの通知を受け取ることもできる。これ以外のソーシャルメディアを愛用している人には、さほどうれしくないニュースかもしれないが、Twitterを愛用している人であれば、ちょっとした操作が劇的に簡単になる。
例えば、デジタルカメラで撮ったたくさんの写真の中からベストショットを選んで、すぐにでもTwitterで共有したかったとしよう。ユーザーはFinderで、SDメモリーカードの写真が入ったフォルダを開き、写真がブレていないか、ファイルを1つ選んでスペースを押してQuickLook機能で拡大プレビューをする(アプリケーションを起動することなく、Finder上でプレビューする機能)。
「これぞ」という写真を見つけたら、QuickLookのウィンドウの右上にある「共有」ボタンから、「Twitter」を選べば、なんとFinderから直接、ほかのアプリケーションを一切起動することなく簡単にベストショットをTwitter共有できてしまう。同じことをやるのに、これまでどれだけ手間がかかったかが分かる人なら、どれほど劇的な改善か分かるだろう。
2つめはちょっと渋めだが「Gatekeeper」の機能だ。アップルの機器はウイルスなどに侵されることはほとんどなく、それ以外のマルウェアも圧倒的に少ないことが強みになっている。あいにく本日、iOSで一部のアプリケーションがユーザーのプライベート情報を取得していることが分かり大問題になったが、こうした場合も、アップルはすぐに対処して、アプリケーションの配布を止めるなどの対策を施している。
こうした「安心して使える」という側面もアップルブランドの大きな価値の1つだが、アップルもその価値をしっかりと認めて、そもそもマルウェアがほとんどないMacで、さらに今後も、利用者が増えたからといってマルウェアに汚染されることがないようにあらかじめ対策を施した。
それも「Mac App Storeから入手したアプリケーションしか実行しない」、「Mac App Storeのものか、アップルに登録された開発者のアプリケーションしか利用しない」、「自己責任でどんなアプリケーションでも利用する」という、極めてシンプルな3種類のオプションの選択だけで実現したのは、現実的かつ分かりやすい、非常に素晴らしい解決策だと思う。
先にiOS機器とMacの連携の素晴らしさについて書いたが、これらの機器全体を通して、しっかりとした安全性が担保されているということは、さらに素晴らしい価値を生み出すはずだ。
3つめは「通知センター」だ。iOSでは、個々のアプリケーションが個別に通信を行うのではなく、OS側で統合的にユーザー通知を引き受ける「通知センター」機能は技術が分かる人の間でも、通信量を抑え、バッテリー消費を防ぐ画期的なアイデアとして高い評価を受けた。しかし、この機能がパソコンで搭載されるとは、あまり考えていなかっただろう。
確かにパソコンでは、それほど通信量の増減を気にする必要もなければ、バッテリー消費をシビアに考える必要もない。だが、よく考えるとこれまでもユーザーは、標準的通知システムを求めていたところがあり、それがユーザー通知専用の人気シェアウェア「Growl」(Growl Teamが開発)の人気を支えていた。同じ機能がOS標準で用意されたことで、今後、はGrowlの利用者が激減するかもしれない。
とはいえ、やはり第三者が提供する機能でなく、OS標準でこうした機能を用意することは大きな意義を持つと思う。また、通知用APIなどiOSと共有のAPIが用意されることで、iOSとMacで単に機能をそろえるだけでなく、同じアプリケーションが利用できるように、開発者にソフトの両プラットフォーム対応を呼びかけやすくなった点も重要かもしれない。
4つめは「AirPlayミラーリング」だ。すでにApple TVを持っている人ならiPhone 4SやiPad 2で、画面下のメニューからApple TVを選択して「ミラーリング」というスイッチをタッチするだけで、ケーブルの着脱なしですぐにこれらの機器の画面がテレビに映し出されるAirPlayミラーリングの素晴らしさを体験したことだろう。
パネルディスカッションなどを行う際も、HDMI対応プロジェクターにApple TVをつなぎ、パネラーのiPad 2やiPhone 4Sがみな同じ無線LANに接続していれば、スイッチャーなどを使わずに投写するiPad/iPhoneの画面を切り替えでき、非常に便利なのだ(ただし、IT系の会議などで無線LANの電波が混信している場合は失敗しやすい)。
このAirPlay接続できる仲間に、ついにMacまでも加わるのは、非常にうれしいことだ。願わくばAirPlayの映像受信技術をもっと広くライセンスして、例えば大型画面を内蔵したiMacや、Apple TVがつながっていないテレビやプロジェクターなどでも映像を受けられるようになれば、iOS機器やMacを使ったエンターテインメントやワークスタイルにも激変が起きそうだと期待している(ただ、混信に備え、できればこと解像度の高いMacだけでも有線LANでのミラーリングにも対応してほしいところだ)。
iPhone、iPadの大躍進で、時価総額世界一となり、株価も500ドルを上回ったアップル。経営体制も大きく変わり、もしかしたら、さすがにそろそろ一段落つくのではないかと思っていた部分もあるが、それどころか、かつてよりも勢いを増して新発表を行い、ポストPCの後ろで影が薄くなりつつあったMacにここまでの魅力を持たせたのは、さすがだと思わされる。
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