実空間透視ケータイは“プラットフォーム志向”――KDDI研究所の小林氏:KDDIの拡張現実サービス(2/2 ページ)
Android端末向けの「Layar」や、iPhone向けの「セカイカメラ」が公開されるなど、対応サービスの登場が相次ぐ拡張現実サービス。こうした中、東大キャンパスで実証実験を行った「実空間透視ケータイ」は、どのような特徴を打ち出そうとしているのか。
実空間透視ケータイは“プラットフォーム志向”
携帯を利用した拡張現実サービスは生まれたばかりで、いずれのサービスプロバイダもキラーコンテンツの開発を手探りで進めている状態だ。こうした中、リリースされたばかりのセカイカメラをはじめとする他の拡張現実サービスと実空間透視ケータイの違いについて、小林氏はこう説明する。
「ぱっと見では、“3D上に重ねるか、リアルに重ねるか”の違いだが、現時点で大きく異なるのは“クライアントがどのサーバに接続できるか”という点」(小林氏)
セカイカメラのクライアントは現状、セカイカメラのサーバとしかつながらないが、実空間透視ケータイは「いろいろなサーバに接続できる」のが特徴というわけだ。さまざまなサーバに接続できるということは、同じ場所でも用途によって異なる拡張現実サービスを利用できるということで、例えば、ランチのおいしい店を探すならグルメ系のARサービス、買い物を楽しむならショッピング系のARサービスといったように使い分けられる。「仮にTwitterのサーバを使ったサービスがあったとして、そこにアクセスすれば、(実証実験の)キャンパスツアーとは全く異なる背景に、つぶやきが一斉に表示されるようなサービスになる」(小林氏)というように、クライアントは同じでも、サーバを変えることで全く異なるサービスを提供できると話す。
これは、実空間透視ケータイが、プラットフォーム志向であることが理由で、「目的はコンテンツを作ることではなく、プラットフォームを作ること」(同)だと小林氏。たしかに、すでに多くのコンテンツプロバイダを抱える通信キャリアがサービスを提供する場合には、プラットフォームに徹した方がビジネスモデルも構築しやすく、理にかなった戦略といえそうだ。
普及フェーズに入る時期については、「少なくとも2〜3年はかかるだろう」と小林氏見る。それは、「ようやく(おサイフケータイで)タッチするのが自然になってきたところに、新たに“実空間にかざす”というリテラシーが登場し、それが人々の生活になじむのには一定の時間がかかる」(同)からだ。ほかにも対応端末の普及や、“かざしたくなる”キラーコンテンツの開発など、普及に向けた課題はさまざまだ。
「課題は技術的なところに加え、“かざす気になる”サービスをどう作っていくか。頻繁にかざしてもらえるような環境作りが必要であり、そのためにはセカイカメラや直感ナビ、実空間透視ケータイがさまざまなサービスをリリースし、触れる機会を増やしていくのが重要だ」(小林氏)
小林氏は、携帯電話向け拡張現実サービスが登場し始めた今は、Webブラウザの黎明期に似ていると見る。「MosaicやNetscape、Internet Explorerの機能や閲覧できるコンテンツが異なっていた頃と似ていると思う。携帯向けARは、どんな機能やUIがいいのか、検索や広告をどうするか――といった機能を試行錯誤している段階。いずれはユーザーがベストだと思うものが選ばれ、似たものになっていくのかもしれない」(同)
プラットフォームが分断すると、市場は大きくならない――東大 准教授の山内氏
今回の実証実験で、コンテンツを提供する博報堂DYと技術を提供するKDDI研究所のコーディネート役を担当したのが東京大学 大学院情報学環 准教授の山内祐平氏。同氏も、拡張現実サービスに期待を寄せる1人だ。
単に“ここは名所”というだけでなく、「その場所にどのような歴史があり、それに対して人々がどのような考え方をしているか――というところまでの情報を埋め込むことができれば、教育面でも非常に役立つ」という考えから、キャンパスツアーのコンテンツ監修も手がけたという。
キャンパスツアーは、現役の大学生がキャンパスライフを語るようなコメントで施設を案内しているのが特徴。「その場に生きている人たちのリアルな物語が分かるのも、拡張現実サービスの特徴。こうしたリアリティから想像をめぐらせるところに新しいエンタテインメントや学びの形があるだろう」ということで、あえてカジュアルな内容にしたという。
今後は実空間透視ケータイだけにとどまらず、他のプラットフォームにも協力していきたいと話す。「プラットフォームが分断すると、この市場は大きくならない。協力して携帯電話向け拡張現実の共通プラットフォームができれば、そこで初めて、我々のようなアプリケーション寄りの開発者たちの出番になってくるのではないか」(山内氏)
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長の榊原廣氏は、これまでなかった“その人がそこで何をしているかということと、バーチャルなプロモーションやコンテンツを連動させるインタフェース”が生まれたことに、マーケティング面の大きな魅力を感じると話す。「街中で“お腹がすいた”と思ったときに、かざしたケータイの画面にクーポンが表示されれば、“そこに行く”という行動のきっかけになるなど、プロモーション的な側面が分かりやすい。メッセージを投げるだけではなく、人を店や場所に誘導できる道具になる」(榊原氏)
この手のサービスは、“主婦が面白い”と感じて使うようになるとブレイクするといい、こうした層にとってのキラーコンテンツをいかに創出するかが重要だと話す。「例えばスーパーマーケットなどで、ケータイをかざすと産地が分かるようにするサービスは、QRコードより直感的に使える」(榊原氏)。
拡張現実サービスでは、“人がどこで何をしたか”という情報がサーバに蓄積され、「過去にその人や場所に何が起きたのかを見られるようになるなど、リアルな世界の情報の編集の仕方が変わってくる」と榊原氏。「こうした世界では、これまで想像もつかなかったようなサービスが生まれるのではないか」(同)
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