“ポスト905i商戦”を前に、守りを固めたドコモ:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
大ヒットした905iのユーザーが“割賦明け”となる冬春商戦で、ドコモは完成度の高いSTYLEシリーズと、905iからの“乗り換え”を強く意識したPRIMEシリーズを投入する。さらにネットとリアルの連携を前進させる魅力的なサービス「オートGPS対応iコンシェル」も打ち出してきたが、この新サービスの対応機種に関して、筆者は疑問を感じざるを得ない。
画期的な「オートGPS対応iコンシェル」
一方、新サービスに目を向けると、今期の目玉は「オートGPS対応iコンシェル」になる。これは端末上で常に位置情報を把握し、それを用いてユーザーに最適なコンテンツやサービスを提供するという行動支援型のサービスプラットフォームだ。ユーザーの“現在地”をベースに的確なコンテンツを届ける仕組みは、インターネットサービスの在り方を根底から変えるものだ。GoogleやApple、Microsoftなどが目指す「ネットとリアルとの連携」と同じベクトルを向いたものであり、今後のモバイルICTのビジネスはもちろん、人とネットサービスとの接し方を変えるだけの潜在力があるという点でも、重要な取り組みであり先行事例と言える。
今回の発表会では、現在地周辺駅からの自宅周辺駅までの周辺駅を自動で知らせてくれる「終電アラーム」や、周辺駐車場の満車空車情報、東京ディズニーリゾートとの連携サービス、ほかにも自分で地図上の位置を登録して備忘録代わりに使える「オートGPSリマインド」などの関連コンテンツ/新機能が紹介された。交通事業者やタウン情報を持つ媒体社、大手飲食チェーンなどリアルビジネスを持つサードパーティの参入も予定されており、今後コンテンツが増えれば、“ケータイの利用スタイルが変わる”トリガーになりそうだ。その点で筆者は、今回のオートGPS対応iコンシェルの登場は、かつてのiモード/iアプリや、おサイフケータイの登場に匹敵する重要なものだと見ている。
しかし、その一方で、今回の新商品ラインアップにおけるオートGPS対応iコンシェルの導入について、筆者は大きな不満と失望を感じている。
それは今回の新商品ラインアップの中で売れ筋になるであろう「STYLEシリーズ」において、オートGPS対応iコンシェル対応機種がたったの3機種(F-02B、N-01B、P-02B)しかないことだ。さすがにPRIMEシリーズでは全機種対応しているが、新たなサービスプラットフォームにおいて、端末の普及台数と普及速度が重要であることは、iモードを立ち上げたドコモ自身が分かっているはず。販売の主力がSTYLEシリーズにシフトする中で、そこでの採用率が3割というのはあまりに低すぎる。しかもバリューコース・24回の割賦払いが主流の今では、今回、オートGPS非対応モデルを購入したユーザーが次に買い換えるのは2年後――。これでは、あまりにも対応端末の普及に不利だ。
そもそも、オートGPS対応iコンシェルの仕組みは、積極的にコンテンツ利用をするヘビーユーザーよりも、ごく普通のユーザーこそ利用メリットがあるものだ。それをSTYLEシリーズ全機種に対応させなかったことは、ドコモの手抜かりであり誤った判断と言わざるを得ない。この分野のサービス/ビジネス面での可能性や発展性が大きく、しかもAppleのiPhoneをはじめグローバルプレーヤーの先を行くものだけに、ドコモのこの舵取りのミスは残念なところである。
iPhone対抗策が打ち出せるかが大きな課題
そして、もう1つ。かなり鉄壁に見える今期のドコモラインアップには、無視できない「隙」がある。それはAppleのiPhone 3GSに対抗できるモデルが、正式にラインアップできていないことだ。
周知のとおり、スマートフォンの市場規模そのものはまだ小さく、全国区での市場競争での影響は限定的だ。iPhoneの販売数量は2009年上期だけで約65万台(MM総研調べ)。学校や企業向けに発表・未発表も含めて数百台〜数千台規模の大量導入が始まるなど、今夏以降、都市部を中心に快進撃を続けているが、それでも数量的な影響力が大きく出るには至っていない。だが、その一方でiPhoneは、モバイルにおける新たな利用スタイルの提案や先進的なイメージにおいて、販売数量以上のインパクトを携帯電話市場に与えている。
特に最近は都市部の若い女性(F1層)が普通にiPhoneを使うようになったことで、国内携帯電話メーカーのハイエンドモデルから、(先進イメージのケータイとして)iPhoneに乗り換える例が出始めている。905iシリーズの買い換え期を迎えたユーザーの一部が、iPhoneに興味を持つことは十分に考えられるだろう。
そのような中で、ドコモに必要なのは、Appleに匹敵するブランド力を持ち、なおかつ先進的で一般ユーザー層にも訴求できるスマートフォンだ。その1つの答えになりそうなのが、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの「Xperia X10」だろう。ドコモの山田社長は記者会見の質疑応答でX10について強い導入意向を示し、最終検討段階ではあるが、来年春から夏にかけて導入したいと強調した。ここにきてiPhoneの一般層への普及に弾みがついていることをかんがみれば、ドコモのX10導入は急務だろう。ドコモがいつXperia X10の市場投入ができるか。また、Xperia X10がiPhone対抗馬として一般ユーザー層に浸透できるかは、来年春商戦のもう1つの注目ポイントである。
激戦必至の冬春商戦。ユーザーは「長い目で見た」選択を
iPhone対抗の部分で隙はあるものの、総じていえば、ドコモの冬春商戦向けラインアップの布陣は厚い。auやソフトバンクモバイルはポスト905i商戦にむけて積極的な新商品/新サービスで攻勢を仕掛けるが、ドコモもSTYLEシリーズの充実やiコンシェルの進化でしっかりと対抗策を講じている。今年の年末商戦から来年の春商戦は各キャリアの新モデルが次々と登場し、店頭キャンペーンや端末価格値下げも激しく行われる激戦となりそうだ。
そのような中で、今期の端末買い換えを考えているユーザーは、ぜひ「長い目でみて必要な機能・サービス」を考え、「自分のニーズやデザインの感性にあった1台」を選んでほしいと思う。
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