「憂鬱な現実」をどうやって解決するか ソフトバンク孫社長が勝利の方程式を伝授:Mobile World Congress 2011
Mobile World Congress 2011の基調講演に登壇したソフトバンクの孫正義社長が、通信事業者の“憂鬱な現実”と、その状況を打破した先にある未来を熱弁した。
スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2011」で2月16日、ソフトバンク社長兼CEOの孫正義氏が基調講演を行った。孫氏は「“クレイジーな賭け”と批判された」2006年のボーダフォン日本法人の買収から、モバイルインターネット企業へとかじを切ったソフトバンクの歩みを振り返った。
米Intelのポール・オッテリーニ社長の後に登壇した孫氏は、冗談を交えた切れのいいスピーチで会場を沸かせた。孫氏の後に登場したのは米Cisco Systemsのジョン・チェンバース氏、そして米Yahoo!のキャロル・バーツ氏。4人の中で、最も会場の反応が良いスピーチだった。
「加入者数の増加がエンジンとなり、急激な成長を遂げてきたモバイルオペレーター(通信事業者)だが、現在の状況は“憂鬱な現実”だ」と孫氏は語る。新規加入者は期待できず、ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)は下がる。主要オペレーターは軒並みARPU減に悩まされており、世界全体で見るとARPUはこの5年で42%減少したという。これから先は、加入者の増加が1.5倍、ARPUは1.5分の1減少するような時代であり、「(1.5×1.5分の1=1となるため)成長はゼロだ」と孫氏。そして「これがわれわれを取り巻く憂鬱な現実だ」と続ける。実際、成長国の主要オペレータの株価はこの3年、ほぼ横ばいで推移しているという。
このような状況を打開するには、「大きな賭けが必要」(孫氏)とし、5年前の決断を示した。ソフトバンクが英Vodafoneに支払った金額は89億ポンド(当時の為替で約1兆7500億円)。取引は現金で、負債を負っての大きな買い物となった。孫氏の賭けに対する市場の目は厳しく、ソフトバンクの株価は60%下がった。「“クレイジーな賭け”と批判された」と孫氏は振り返る。
さらに“憂鬱な現実”は加入者の伸び悩みとARPU減だけではない。モバイルデータの利用増加によるデータトラフィックの成長もある。データトラフィックが5年で30倍増加するというCiscoのチェンバース氏の予想を土台に、「10年で1000倍増」と孫氏。「CAPEX(設備投資)が増えて、ジョン・チェンバースがハッピーなだけだ」と言い、会場の笑いを誘った。
しかもアプリケーション側の主導はAppleやGoogleが握りつつある。「キャリアは“ダムパイプ”(回線を提供するだけのパイプ役)になりつつある」と孫氏は指摘した。
では、このような状況でソフトバンクは何を目指すのか。孫氏の答えは「市場価値を高めること」。そしてこれを実現するのは、「市場シェアの増加」と「ARPUの増加」の2つしか解決策はない、と言い切った。
買収から5年、孫氏が敷いた戦略はどのように推移したのか。買収後ソフトバンクモバイルは契約者数を増加させ、買収時の1520万人から2460万人となった。つまり、市場シェアは増加したことになる。そしてARPUも改善した。音声のARPUは引き続き減少しているが、データからのARPUが増加し、音声ARPUの減少を相殺した。「われわれは、ARPUが増加に転じた数少ないオペレータの1社だ」と孫氏は胸を張る。
孫氏は成功を裏付けるもう1つのスライドを見せた。財務指標の1つであるEBIT(支払金利前税引前利益)でも、減少傾向にあったボーダフォンジャパン時代から見事に上向かせ、現在、買収当時の5倍となった。
「ときには、クレイジーさが良いリターンを生むこともある」と孫氏が述べると、会場からは拍手が起こった。
現在のビジョンは引き続き、モバイルインターネットでナンバー1の企業になることだ。モバイルキャリアを「音声企業からインターネット企業に変えること」と孫氏は説明する。
孫氏はそのビジョンに近づいているデータも紹介した。現在ソフトバンクモバイル加入者の100%が3Gを使っている。また、SMSを除いたデータARPUの比率は54%で、世界でナンバー1だ。Mobile World Congressの来場者の半数近くがオペレータといわれており、孫氏は会場の同業者に向かって「同じことをすれば、興味深い結果が出るだろう」と助言した。
また、社員の全員が「iPhone」と「iPad」を所有し、社屋では100% Wi-Fiが利用でき、96%の社員がTwitterアカウントを持っていることにも触れた。さらには、自身が日本人で最も(鳩山元首相よりも)フォロワーが多いTwitterユーザーであるとも述べた。
「スマートフォンを増やし、タブレットを増やし、企業価値を高める。これが勝利のフォーミュラだ」と孫氏。そして、現在の市場の状況として、新規契約する学生の85%がスマートフォンを選ぶというデータを挙げ、スマートフォンの成長が業界の予想よりも速いピッチで進んでいることにも触れた。
最後に孫氏は、初めの“憂鬱な現実”に戻り、「解決策はある。ソフトバンクはそれを実証した」と競合よりも積極的に、将来に向けた賭けをすることの重要さを強調した。
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