“iPhone以外”の競争力向上を図るソフトバンク――スマートフォン市場第2ラウンドに先手:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
ソフトバンクの端末ラインアップは、戦略商品であるiPhoneの影響を色濃く受ける。しかし、市場全体のスマートフォン移行が急速に進む中で、同社は早くも次の一手を打ってきた。ソフトバンクモバイルの2011年度冬春モデルをひもとく。
オフロードのULTRA SPEEDと将来投資のSoftBank 4G
製品ラインアップに続いて、インフラ戦略も見てみよう。
ソフトバンクモバイルは今回、かねてから各種ユーザー調査でドコモやKDDIに比べて「弱い」と評価されていたインフラのテコ入れを行うと強調。2010年後半から積極的に取り組んできた電波改善への取り組みの現状報告をするとともに、iPhone投入以降、他キャリアよりも先行して進んでいるトラフィック急増の問題に関して、2つの新たなアプローチで対処することを表明した。
1つは旧J-フォン時代に用いていて、2010年3月に停波した2G(PDC)用の1.5GHz帯の周波数に、最新の3G通信技術であるHSPA+方式を導入した「ULTRA SPEED」の活用だ。このサービスは周波数帯が国際的な3G標準ではないため、国内メーカーを中心にソフトバンク向けに開発されたスマートフォンしか使えないという弱点はあるものの、今まで使用してきた3G技術の発展系であるため、モバイルWiMAXなど“次世代インフラ”よりも現行の3Gとスムーズに切り替えて利用できるというメリットがある。本体側への実装で見ても、モバイルWiMAXやLTE系の通信技術よりも容易なため、ULTRA SPEED対応はハイエンドモデルに限らず広がるだろう。実際、今回のラインアップでも、ハイエンドモデル3機種だけでなく、エントリーモデルのHONEY BEE 101Kも対応している。
そして、もう1つが「SoftBank 4G」である。
これはUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXと同じ2.5GHz帯を用いた次世代インフラサービスであり、元を正せばウィルコムが免許を取得していたものだ。その後、経営破綻したウィルコムの資産を、ソフトバンクが出資するWireless City Planningが引き継ぎ、「AXGP(Advanced XGP)」としてサービス展開。それをソフトバンクモバイルが借り受ける形で、SoftBank 4Gとしてサービス展開する。このように経緯は分かりにくいが、形としては、今回「モバイルWiMAX対応スマートフォン」を投入したKDDIとUQコミュニケーションズの関係とほぼ同じである。
このSoftBank 4Gは、次世代の通信技術の1つである「TD-LTE」の互換技術を用いており、2010年12月にITUが出した声明によれば“4G”と呼ぶことは差し支えない。なお、LTE系の次世代通信サービスとしては、2010年12月24日にスタートしたNTTドコモの「Xi(クロッシィ)」がFDD-LTEを採用しており国内では先行していた。しかし当時のドコモは、ITUの「3Gを発展させたシステムにおいても、4Gと呼称してよい」という声明を採用せず、従来どおり、技術的な世代区分としてXiを3.9Gと位置づけた。サービス名称をどう付けるかという細かな話ではあるが、マーケティングが巧みなソフトバンクモバイルと、時として生真面目すぎるドコモの違いがよく現れている部分と言えるだろう。
SoftBank 4Gは“次世代インフラ”という点では、KDDIのモバイルWiMAXやドコモのXiのライバルとなるものだが、サービスエリアの展開はこれから。孫氏は「2012年度末に全国政令指定都市の人口カバー率を99%にする」とアピールしたが、物理的な工事が必要なサービスエリアの整備と調整は一朝一夕では実現できない。実際に“まともな”面エリアが整備され、その上で主要な屋内施設までカバーするようになるには、どれほど急いでも2〜3年はかかるだろう。一方で、エリアが整備されれば、SoftBank 4Gはソフトバンクモバイルにとって重要かつ貴重なインフラになり得る。モバイルWiMAXと同様に、通常のケータイ/スマートフォン用とは異なる2.5GHz帯の周波数を使い、基地局コストも一般的な3Gよりも安くできる可能性が極めて高いからだ。SoftBank 4Gは下り最大100Mbpsという高速通信の部分が強くアピールされているが、その本質的な価値(にして他キャリアに対する脅威)は、低コストなデータ通信専用インフラとなる、という部分にある。
総じて見ると、ソフトバンクモバイルのインフラ戦略は、短期〜中期では「ソフトバンクWi-Fi」と「フェムトセル」の大規模展開と「ULTRA SPEED」でオフロードを行い、中期〜長期はこれらに加えて「SoftBank 4G」を活用していく、というものだ。現在の3Gインフラもグローバルでの潮流に合わせてFDD-LTEに切り替えていくが、そうなっても“コストが安いオフロード用インフラ”の重要性は変わらない。むろん複数インフラへの投資とエリア拡大が中途半端で終わったら画餅になってしまうが、“オフロードのためのマルチネットワーク化”を軸とするインフラ戦略そのものはスマートフォン時代の理にかなったものと言えるだろう。
スマートフォン市場、第2ラウンドに先手
今後のスマートフォン市場を見据えると、「ケータイのミドルユーザー層のスマートフォン移行」と、データオフロードのための「マルチネットワーク化・次世代インフラへの投資と活用」が重要なテーマになる。ここでの各キャリアの施策が、今後の趨勢を定めるだろう。魅力的なハイエンドスマートフォンのラインアップを取りそろえればいいという“第1ラウンド“は終わり、スマートフォン市場の競争は、より総合的なキャリアの戦略を問われる“第2ラウンド”へと突入するのだ。
この市場の変化において、ソフトバンクモバイルの今回の発表は「他キャリアに対して先手を打つ」ものだった。iPhone以外の競争力をしっかりと高め、とりわけ端末ラインアップの面では“iPhone依存”の現状を抜け出す足がかりが作れていると思う。これに加えて今回提示されたインフラ戦略が、堅実かつ真摯に実現されれば、iPhoneを中心としながらも今まで以上の競争力を得ることができるだろう。ここ数週間ほど、"KDDIから発売されるiPhone 4S”に世間の耳目が集まっているが、今回のソフトバンクモバイルの変化も見逃せないポイントと言えそうだ。
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