HTML5か、ネイティブアプリか、ハイブリッドか、それが問題だ:Open Mobile Summit London 2012(2/2 ページ)
ワンソースでさまざまなプラットフォームに対応でき、アプリストアからのコミッションも回避できるHTML5が注目を集めている。しかしHTML5にもコスト面や開発面の課題があり、ハイブリッド戦略を検討する企業が増えているという。
HTML5の課題、コストや開発難易度の高さ
しかしHTML5も“バラ色の技術”というわけではない。例えば別のパネルディスカッションで、あるモバイルアプリ開発企業は、HTML5が離陸しない理由について「ユーザー体験など、われわれがこれまで(ネイティブアプリで)実現してきたことを提供できない。HTML5はハードウェアとやり取りするレイヤーやプレゼンテーションなど、すべてのレイヤーには使えない。ぐちゃぐちゃだ」と不満を漏らす。また、ユーザーのリーチについても、「重要なプラットフォームはごくわずか(iOSとAndroid)に限定されている」という見方だ。
このパネルディスカッションで挙がったHTML5の課題は、スキル不足とコスト高といった点だ。YouTubeのドロニチェフ氏は「HTML5のスキルを持つ開発者は少ない」といい、NYTのフロンス氏も「開発は簡単ではない」と同意する。HTML5を全面的に支持するFTのグリムショー氏は「コスト高の点は同感」としたが、スキルを持つ開発者は今後増えるだろうと楽観視している。なお、グリムショー氏はFTのような出版業にとってはHTML5は十分だが、ゲーム開発など高い機能が要求されるアプリとなるとHTML5では不十分という点には同意している。
「アプリストアなしで、ユーザーからアプリを見つけてもらえるか」という課題についても議論がなされ、YouTubeのドロニチェフ氏は「“アプリはアプリストアで見つける”というのが定説になっている。HTML5アプリは入手できる一元的な場所がなく、どこから入手できるのかユーザーは理解していない」という点を問題視する。実際、YouTubeのHTML5アプリもマーケティングに投資したものの、効果はそれほどでもなかったという。
FTのグリムショー氏は「オープンなWebのほうが発見されるのは簡単」と正反対の意見だ。「(AppStoreには)まったくダウンロードされていないアプリも多数ある。HTML5ではこれまで(デスクトップのWebサイトで)やってきたプロモーション手法が使える。アプリストアではAppleやGoogle任せとなるが、Webなら自分たちでコントロールできる」(グリムショー氏)。Rocket Packのクピアニネン氏も、Webでの検索が機能している点に触れ「なぜ議論になるのか分からない」と述べた。
このほか、パネルディスカッションに参加した4社すべてが課題として、ブラウザへのHTML5の実装の足並みが揃っていない点を挙げた。
ネイティブアプリからHTML5へのマイグレーションは
HTML5アプリを公開した場合、ネイティブアプリからスムーズに移行してもらえるのか――。この点については、FTのグリムショー氏が自社のケースを紹介している。
HTML5アプリの公開当時、iTunes StoreからのFTアプリのダウンロードはすでに130万件に達していた。FTでは、ネイティブアプリやHTML5などといった技術面には触れず「新しいアプリをリリースしたのでぜひお試しを」と告知した。これがうまくいき、ネイティブアプリユーザーの98%がHTML5アプリに移行したという。
トレンドは、ネイティブアプリとHTML5の“ハイブリッド戦略”
今回のパネルディスカッションで目新しい動きとして紹介されたのが、ネイティブアプリとHTML5の両方を展開するハイブリッド戦略だ。それぞれのプラットフォーム向けに別々にアプリを開発することは、コストがかさむ上、トレンドの移り変わりが速いモバイル業界では大きなリスクにもなりかねない。そこで、HTML5を土台にしたものをネイティブレイヤーでラッピングすることでネイティブアプリにする――という手法を採る開発者が増えているという。
これは、「PhoneGap」(米Adobe Systems)などのツールがそろってきたことが要因となっているようで、YouTubeのドロニチェフ氏は、このハイブリッドアプリ戦略に前向きな見方を示している。FTも、「Androidアプリではコードの95%がHTML5。これをAndroidラッパーでラッピングしている」(グリムショー氏)と明かす。Rocket Packのクピアニネン氏は、「Webベースのアプリがあれば、他のプラットフォームでの展開が容易になる」と述べた。
最後にモデレーターが、モバイルアプリ開発者へのアドバイスを求めると、FTのグリムショー氏は「われわれの存在を示すのにAppleは必要ないが、名もないスタートアップ企業にはAppStoreのルートを勧める」という。NYTのフロンス氏は「レスポンスの良いデザインは必須。HTML5でコアを作成し、これをフレームワークを使ってラッピングしてまずはAppStoreで販売することを勧める」と助言。パネリストらは、ダウンロードの点ではiOS(AppStore)とAndroid(Google Play)は大差ないとしたが、(有料アプリやアプリ内課金を通じての)収益という点ではAppStoreに高い評価を下した。
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