電力見える化システムのよく効く使い方 後編 「データを集めてさらに節電」エネルギー管理(2/2 ページ)

» 2012年05月16日 06時00分 公開
[目黒眞一/エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ,スマートジャパン]
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サーバルームを調べるときは空調機器に注目

 先に挙げたオフィス内の共有サーバのほかに、数多くのサーバを集めたサーバルームを備えている企業も少なくない。業容の拡大によって、どんどんサーバが増えているという企業もあるだろう。

 サーバはネットワーク機器と同様に、簡単に止めるわけにはいかない。サーバの消費電力だけを計測しても、サーバを止められない以上、電力消費量削減は難しい。

 ここで注目したいのが、サーバを冷却する設備の存在だ。一般にサーバルームには、サーバを冷却するために大型の空調機器が備わっている。もちろん、この空調機器も電力を消費する。しかも、かなりの電力を消費する。1台のサーバだけを見ていても消費電力量削減は難しいが、サーバルームという単位で見れば、消費電力を削減する余地はまだまだあるのだ。

 サーバルームに備わっている空調機器の消費電力を評価するときは、サーバやネットワーク機器の消費電力量に対する空調機器の消費電力量を見ると良い。これは、PUE(Power Usage Effectiveness)という単位で表せる。

 PUEとは、データセンターの資源効率改善を世界規模で推進する業界団体グリーン・グリッドが提唱している指標だ。データセンター設備の電力効率を表す。設備全体の消費電力を、コンピュータやネットワーク機器が消費する電力量で割ることで算出できる。

 仮に、空調を一切使わず自然冷却だけで運用すると、PUE値は1になる。サーバやネットワーク機器が消費する電力量と、空調機器が消費する電力量が変わらないという場合、PUE値は2となる。PUE値は1に近いほど空調機器の効率が良く、2に近づくと効率が悪いということになる。

PUE値と温度を調べて対策を立てる

 実際に、ある企業が保有する複数のサーバルームの電力消費量を測定し、PUE値を算出したことがある。それぞれのサーバルームのPUE値を電力の見える化システムで比較できるように表示したところ、空調機器の効率に大きな違いがあることが分かった。

 結果を見たところ、最も効率が良いサーバルームのPUE値が1.3、最も効率が悪いサーバルームのPUE値は1.9に達していた(図3)。

PUE 図3 ある企業が保有する複数のサーバルームの電力消費量と室温、PUE値を表したグラフ(出典:NTT-AT)

 サーバルームと一口に言っても、その実態はさまざまだ。広いものもあれば、狭いものもある。設置してあるサーバの種類や設置台数も、サーバルームによって変わる。サーバルーム全体が消費する電力量を比較しただけでは何も見えてこない。

 そこで、PUEという指標が役に立つ。空調の冷却効率の違いが見え、消費電力量削減策を考えることができるようになる。

 PUE値が判明したら、PUE値の差がどうして生まれるのかを分析し、原因を調べることだ。ここで役に立つのがサーバルームの室温というデータだ。室温を計測して見える化してしまうと、サーバルームによって室温が違うということがはっきりする。先に挙げた事例では、PUE値が最も悪かったサーバルームは、空調機器の設定温度が22度だったが、ほかのサーバルームでは、空調機器の設定温度はもっと高かった。

 設置機器が少なく、空きスペースが多いにも関わらず、部屋全体の空調を動かしていたサーバルームや、古い空調設備を使っていたサーバルームもPUE値が悪かった。このようにさまざまなデータを見える化することで、効果的な消費電力量削減策を見出せるのだ。

温度を調べれば自信を持って設定温度を上げられる

 サーバルームの空調機器の設定温度を見直すことは、消費電力量削減には有効だが、サーバ管理者にとっては勇気がいることである。サーバルームの温度が高くなると障害発生率が高くなるのではという心配が付きまとい、空調機器の設定温度を上げて問題ないと責任を持って言えないからだ。

 この問題の解決にもサーバルームの温度の見える化が役立つ。実際にサーバルームの温度を測定してみると、空調の設定温度は同じでも季節によって室温は1〜2度変動していた。仮に空調の設定温度が23度で、サーバルームの温度が夏季は25度、冬季は24度だったとすると、冬季の空調設定を1度上げても問題ないと分かるだろう。

 同様に、サーバルーム内の温度分布を見える化すると、場所によって温度が違うことに気付くはずだ。温度の高い場所が見付かれば、空調機器の吹き出し口の向きを調整したり、サーバの配置を変えるなどの対策を打てる。温度分布を均一にすれば、障害発生のリスクを負うことなく空調機の設定温度を上げることも可能となる。

古いサーバは仮想化で集約

 先に、サーバ自体が消費する電力量を削減することは難しいと述べたが、不可能ではない。仮想化技術を利用して、多数の古いサーバを少数の最新サーバに集約し、台数を減らすのだ。サーバの処理能力は上がり続けているので、最新のサーバ1台で複数の古いサーバが担っていた役割を果たせる。

 例えば、業務で利用するサーバが10台あるが、すべて古くなっているような場合は、最新の高性能サーバを2台ほど用意して、仮想化技術を利用して10台の仮想サーバを作り、古いサーバから移行すれば、サーバの台数を減らせる。古くなったサーバの性能によっては、1台に集約できる可能性もある。2〜3台になるかもしれないが、動作するサーバの台数が大きく減るので、消費電力量が下がる。

 サーバの台数を減らすと、空調機器が消費する電力量も削減できるので、大きな節電効果を期待できる。サーバ集約を検討するときも、現状のサーバが消費している電力量やサーバにかかっている負荷を把握する必要がある。ここでも、見える化が役に立つ。

 今夏の電力供給量不足は昨年よりも深刻なものになりそうだ。一刻も早く消費電力量削減の対策を立てようと苦心している企業もあるだろう。消費電力量の削減にはさまざまな方法がある。しかし、現状を知らなければどのような対策を打つべきか見当が付かないし、対策を打ってもその効果が見えない。消費電力量削減を真剣に考えるなら、電力を見える化することは絶対に必要であり、見える化によって得られるデータは有効な武器となる。

 見える化を実現すると言っても、いきなり本格的なシステムを導入する必要はない。簡単な電力測定器を購入して、気になるところを計るだけでも、ある程度の効果は得られる。もちろん、先のことを考えて本格的なシステムをいきなり導入することもあるだろう。

 自分には電力測定が難しいと心配される方は、専門の技術者に依頼して電力計を設置してもらうと良いだろう。例えば、NTT-ATが提供している「ウィークリー電力見える化サービス」は、電力計を取り付けて消費電力量を1週間ほど計測してくれる。計測期間終了後は、結果を分析して、消費電力量削減策を提案するなどコンサルティングサービスも提供してくれる。見える化システムの導入が難しいテナントにも柔軟に対応する。

 まずは、このようなサービスを利用して短期間でも電力消費量の推移を計測してみてはいかがだろうか。できるところから手を付けて、その結果を基に本格的な施策を検討するのも良い方法だ。本格的な見える化システムは、必要になった時に導入すればよい。

 最近は、政府や自治体が消費電力量削減やピーク時の電力需要抑制を目的に、蓄電池やLED照明の購入に補助金を出すようになった。補助金を利用してこのような機器を導入するのも一つの対策ではあるが、重要なことは消費電力量を削減する方法を考えて実行し、PDCAサイクルを回すことだ。省エネ機器を導入しただけでは、消費電力量削減策はすぐに行き詰ってしまう。これから本格化する夏に向けて、効果的で長く続けられる電力消費量削減策を考えてほしい。

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著者プロフィール

目黒 眞一(めぐろ しんいち)

エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ(以下、NTT-AT) アプリケーション ソリューション事業本部 主幹部長。1976年、日本電信電話(NTT)の前身である、日本電信電話公社に入社、武蔵野電気通信研究所の基礎研究部に所属し、センシングやパターン認識の研究に取り組む。1995年から、NTTのグループ事業推進本部 新規事業開発室に移り、センサー関連の新規事業開発に携わる。2004年よりNTT-ATで、電力見える化システムの開発をはじめ、省エネ、スマートグリッド関連のシステム開発・プロジェクトマネジメント業務を担当している。経済産業省の国家プロジェクトである情報大航海プロジェクトのほか、総務省の省エネ関連のプロジェクトにも多数参画。


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