自社サーバを環境性能の高いデータセンターに移設しよう連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(1)(1/2 ページ)

消費電力量節減の話になると、サーバの消費電力量も問題になる。しかし、サーバは簡単には止められない。第1回では、企業でサーバを保持することによるデメリットを挙げ、自社のサーバを、環境性能の高いデータセンターに移設することで得られる効果を解説する。

» 2012年06月15日 05時00分 公開
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]

 オフィスにおける消費電力量節減策を考えるときは、空調機器と照明機器が主なターゲットとなる。これら2種類の機器が、オフィス全体の消費電力量の大部分を占めるからだ。

 しかしもう一つ、オフィスにおいて大きな電力を消費している機器がある。企業情報システムを支えるサーバだ。サーバルームをいくつも用意して、大量のサーバを運用している企業もあるだろう。自社で使うコンピュータシステムのために、自社専用のデータセンターを保有している企業もある。

 消費電力量削減の話になれば当然、サーバが消費する電力量も削減しようということになるだろうが、これは簡単ではない。空調機器や照明機器と異なり、簡単に止めるわけにはいかないからだ。止めてしまったら、企業活動の大部分が止まってしまう。

 そこでこの連載では、専門事業者が運営するデータセンターを活用するメリットを解説していきたい。さらに、データセンターの利用コスト低下の障害となっている要因や、データセンターが首都圏に集中していることによる問題を指摘していく。

 その障害や問題を取り払い、利用コストを下げていけば、日本企業だけでなく、海外に拠点を置く企業がアジアのデータセンター拠点として、日本のデータセンターを利用するということも考えられるだろう。利用者が世界規模で増加していけば、日本のデータセンター利用コストはさらに下がっていくはずだ。

 第1回となる今回は、企業の情報システムを支えるサーバを環境性能の高いデータセンターに移行するメリットを解説する。

サーバルーム単位で消費電力量を節減する

 サーバ単体で消費電力量を削減することは簡単ではないが、サーバルームという単位で見れば、消費電力量を節減する方法はある。サーバを冷却するための空調機器の設定温度を調節し、サーバルームの冷やし過ぎを防ぎ、空調機器が消費する電力量を減らすのだ。

 サーバルームの空調機器が消費する電力量を評価する指標としては、「PUE(Power Usage Effectiveness)」が有名だ。PUE値は、サーバルームなどの設備全体の消費電力を、コンピュータやネットワーク機器が消費する電力量で割ることで算出できる。PUE値が高いほど、空調に無駄な電力を使っているということになる。空調機器を一切使わず、自然冷却だけで済ませることができれば、PUE値は1.0になる。

 さらに、最新の高性能サーバを導入し、複数の古いサーバが果たしていた機能を集約するという方法もある。仮想化技術を利用して複数の仮想サーバを構築し、それぞれの仮想サーバに古いサーバ1台1台が担当していた機能を移すのだ。動作するサーバの数が減るので、確実な節電効果を期待できる。

サーバを抱えるには手間もコストもかかる

 しかし、企業内のサーバルームの室温を細かく計測し、刻一刻と変わる状況に合わせて空調機器の設定温度を調整することは面倒だ。また、PUE値を追求していくと、建物の設計との兼ね合いで、広いサーバルームにごく少数のサーバしか設置できないという問題が発生する可能性もある。

 サーバ運用に必要な付帯設備も問題だ。先に挙げたサーバ冷却用の空調機器のほかに、データをバックアップする機器も必要だ。さらに、停電に備えるためにUPS(無停電電源装置)も必要になる。サーバの台数が増えてくると、それに応じて多くのUPSを用意しなければならない。

 しかも、UPSは停電時もサーバを運転し続けるためのものではない。一般的なUPSが停電時に電力を供給できる時間は30分程度。大規模なものならばより長時間にわたって電力を供給できるだろうが、そのような機種はかなり高価になる。一般的なUPSは、サーバを安全に停止させるために時間を稼ぐための道具にすぎないのだ。

 このようにサーバだけでなく、サーバを維持するための付帯設備も電力やコストを消費する。オフィス内のサーバルームでは、サーバの冷却効率を上げるために大規模な改装をするなど、思い切った対策は打ちにくい。大規模な改装ができたとしても、かなりの費用がかかる。

環境性能の高いデータセンターへ移設しよう

 電力コストの問題、付帯設備の問題、手間の問題を考えると、企業内でサーバを抱えることは割に合わないことが多分にある。そこで筆者は提言したい。「企業で抱えるサーバをデータセンターに移設することを検討しよう」と。

 企業内のサーバを一掃して、データセンターに移設すると、上記で説明したサーバ運用につきまとう面倒な作業をすべて引き受けてくれる。例えば、仮想化環境を利用したいユーザーには、あらかじめ作ってある仮想サーバを貸してくれる。

 データセンターは大量のサーバを一括で冷却する空調設備を備えている。外気を積極的に利用してサーバを冷やすなどの工夫で、PUE値の低減に力を入れている業者も増えてきている。

 停電時の備えもしっかり整えている。自家発電設備を備えているデータセンターも多い。企業内のサーバが担っていた機能をデータセンターに移すと、空調機器やUPSなどのサーバ運用に必要な設備を、データセンターを利用しているほかの企業と共用できる。管理の手間も軽くなる。データやシステムのバックアップはどうなるのだと疑問を持つ方もいるだろうが、遠隔地にあるデータセンターにバックアップを簡単に作れるような体制を構築すればよい。この点については連載の2回目以降で解説する。

日本におけるデータセンター利用率はまだまだ低い

 図1を見てほしい。日本に活動拠点を置く企業がデータセンターを利用している割合を示したものだ。2011年2月にIDC Japanが発表した調査結果によると、2011年末の時点で日本国内で動作しているサーバの総数はおよそ276万台。アクセンチュアは、国内で稼働しているサーバの年間の総消費電力は276.4億kWhにも上ると試算している。

In-House and DC 図1 日本におけるデータセンター利用率。自社でサーバを抱え込んでいる企業が多く、半数以上のサーバが企業が自社で抱えるデータセンター、企業内サーバルーム(インハウス)、オフィスで動作している(出典:IDC Japan)

 276万台のうちデータセンター事業者が運用しているのは約94万台。割合にするとわずか34%。残りの約182万台(66%)は企業が自社で抱えて運用している。

 先に説明したように、自社でサーバルームを抱えていると電力消費量節減が難しい。運用にはコストも手間もかかる。「冷やせば良い」という単純な考えでサーバルームの空調機器を運転しており、消費電力量節減のための対策を講じていないところも多い。

 サーバとその付帯設備が消費する電力量を削減するには、事業者が運営するデータセンターを利用することが簡単で効果的な策であると筆者は考える。また、この活動は一企業だけで取り組んでいてはいけない。より多くの企業がデータセンターを利用し、日本におけるデータセンター利用率を高めていくことが必要だ。データセンター利用率を高めることで付帯設備を共用する効果が高まり、データセンターの利用コストが低下していくと期待できる。

 また、個々の企業がサーバルームの消費電力量を削減する策を実行するよりも、大量のサーバが集まった大規模なデータセンター全体で消費電力量削減対策を打つことで、より大きな効果が期待できる。各地に点在する、消費電力量をコントロールしきれないサーバ群を集約することで、日本全体のサーバとその付帯設備が消費する電力量を最小化できる。その結果、各企業が負担するデータセンター利用費低下につながるだろう。

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