石炭は燃料として安価に入手できるので、多くの発電所で使っている。しかし、石炭火力発電には地球環境に悪影響を及ぼすガスを多く発生させるという欠点がある。その欠点を克服し、発電効率の大幅な向上を可能にする技術が「石炭ガス化技術」だ。
日本の電力会社は現在、供給力を下支えするベース電力を作るために石炭火力発電設備を利用している。燃料が安価で、設備利用率を高くするほどコスト効率が良くなるからだ。
しかし石炭火力発電にはCO2(二酸化炭素)、SOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)といった、地球環境に悪影響を与えるガスをかなり発生させるという大きな欠点がある。技術の改良を重ねて、こうしたガスも排出前に回収して処理できるようになってきた。それでも、天然ガスを燃料にしたタービンで発電する場合と比べるとどうしても二酸化炭素排出量は多くなってしまう。
では、どうすれば二酸化炭素排出量を減らせるだろうか? 石炭を燃焼させる前に二酸化炭素を回収できれば問題は解決する。それを可能にするのが石炭ガス化技術だ。石炭を直接燃焼させるのではなく、石炭をさまざまな成分に分解して燃料となるガスを取り出し、二酸化炭素を分離回収するわけだ。
石炭をガス化するにはまず石炭を微粒子状にして「ガス化炉」という炉に入れる。炉に空気あるいは酸素を注入しながら加熱していくと、さまざまな成分が発生する。その中には石炭の主成分であるC(炭素)やH2O(水蒸気)がある。
炭素は炉に注入した空気が含んでいるO(酸素)と反応し、二酸化炭素やCO(一酸化炭素)になる。水蒸気と炭素が反応すると一酸化炭素やH(水素)が発生する。一酸化炭素を水蒸気と反応させれば二酸化炭素と水素に分解できる。化学式にすると以下の通りだ。
CO + H2O → CO2 + H2
二酸化炭素を回収すると、一酸化炭素と水素を主成分とする燃料ガスができる。回収した二酸化炭素は地中に埋めるなどの方法で処理する。
石炭をガス化することにはもう1つメリットがある。石炭を直接燃焼させるよりもガス化で取り出した燃料ガスの方が高温で燃焼するのだ。高温で燃焼するということは、発電に利用すると効率が良くなる。
石炭から得た燃料ガスで発電する方式の研究も進んでいる。石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)と呼ぶ方式だ。ガスを燃焼させてタービンを回して発電機を作動させる。さらに、タービンが排出する高温の排気を利用して水を熱して蒸気を作り、その蒸気でもタービンを回すという方式だ(図1)。
IGCCを利用すると、既存の石炭火力発電設備に比べて発電効率が20%程度向上する。ガスタービンでガスを燃焼させるときにどうしても二酸化炭素が発生してしまうが、その量は天然ガスを燃料とする発電設備と同程度だ。さらに、現在の石炭発電では利用しにくい低品質な石炭まで利用できるという特長もある。
IGCCに燃料電池を組み合わせた方式もある。石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC:Integrated coal Gasification Fuel cell Combined Cycle)という方式だ。石炭から取り出した燃料ガスは水素を多く含んでいる。そのガスで燃料電池まで作動させて発電しようという方式だ。燃料電池、ガスタービン、蒸気タービンの3カ所で発電するので、発電効率はIGCCよりもさらに高くなる。
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