岩手県は2020年までに電力需要の35%を再生可能エネルギーで供給する計画を推進中だ。特に拡大が期待できるのは風力発電で、洋上における事業化の検証も始まった。釜石市をはじめ各市町村が復興を目指して意欲的に取り組む。豊富にある木質バイオマスを活用する動きも広がってきた。
東日本大震災の被災地では再生可能エネルギーの重要性を強く感じとった地域が多くあった。震災後に発生した長期におよぶ停電と燃料不足の中で、貴重なエネルギー源になったのが太陽光発電や薪ストーブだったからだ。
そこで岩手県は震災後に策定した「地球温暖化対策実行計画」の中で、省エネと創エネによって2020年度までに県内の電力需要の35%を再生可能エネルギーで自給できるようにすることを目標に掲げた。
特に意欲的に拡大計画を進めているのが釜石市である。「環境未来都市」をテーマにした復興計画を推進して、「釜石に住み続けたい」と思う市民の割合を2009年の64%から2015年には80%まで高めることを目指す。その実現手段の基盤になるのが再生可能エネルギーを活用したスマートコミュニティである(図1)。
風力とバイオマスを中心に、小水力や太陽光、ガスコージェネレーションを含めて自家発電設備の導入を拡大する。と同時に蓄電池や蓄熱槽を市内の各地に配備して、安定した電力と熱の自給体制を構築する計画だ。すでに稼働している大規模な風力発電所に加えて、沖合では浮体式による洋上風力発電の事業化調査も始まろうとしている。
バイオマスでは新日鉄住金の釜石製鉄所が先進的な取り組みを見せる。国内でもまだ実施例が少ない木質バイオマスを石炭に混ぜて燃料に使う混焼発電を実施中だ(図2)。この発電所は石炭火力で15万kWの発電能力があり、製造業の自家発電設備としては最大級の規模になる。現在のところ石炭に対して2%の割合で木質バイオマスを混ぜ合わせている。
岩手県は森林の面積が全国で2番目に広く、間伐などによる未利用の木材が大量にある。これを粉砕して燃料用の木質チップや木質ペレット(粉やくずを圧縮した固形燃料)を製造する工場が県内の至るところで稼働している(図3)。
木質のチップやペレットを燃料に使った暖房・給湯設備が学校や公共施設に広く普及し始めていて、今後は民間企業にも導入を促進する計画だ。岩手県の再生可能エネルギーの導入状況を見ると、バイオマスの熱を利用する量が急速に伸びて、全国で第4位の規模に拡大している(図4)。
岩手県には風力やバイオマスの導入に早くから取り組んでいる有名な町がある。県の中部にある葛巻町(くずまきまち)で、1999年に「新エネルギーの町・くずまき」を宣言してエネルギーの自給率向上を進めてきた。現在のキャッチフレーズは「北緯40度ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」である。
人口7600人、世帯数2900の小さな町に、合計で22MW(メガワット)を超える2つの風力発電所が稼働中だ(図5)。年間の発電量は5600万kWhにのぼり、一般家庭で1万6000世帯に相当する電力を供給できる規模になっている。
町の86%が森林であることから、木質バイオマスにも先進的に取り組んできた。広い高原牧場の中に木質バイオマスをガス化して発電する設備を導入して、120kWの電力と266kW相当の熱を作り出すことができる(図6)。
葛巻町は酪農が盛んで、乳牛が1万頭もいる東北最大の酪農の町でもある。その大量のフンからメタンガスを生成するプラントも導入済みで、37kWの電力と温水を牧場内に供給することが可能だ。自然環境と再生可能エネルギーを融合させて町を活性化した、全国でも類を見ないモデルケースと言える。
県内の各地でバイオマスを利用した設備が広がる一方で、将来に向けては洋上の風力発電に大きな期待がかかる。浮体式による釜石市のプロジェクトに先行して、青森県との県境にある洋野町(ひろのちょう)で着床式による洋上風力発電の事業化調査が実施された(図7)。その結果、年間の平均風速は6メートル/秒を超え、海底の地盤にも問題がなく、事業化の可能性が十分にあることを確認できた。
洋上の風力発電は全国で実証実験が始まっていて、2020年代から急速に拡大していく見通しだ。岩手県の沖合にも洋上風力発電に適した海域が広がっている。再生可能エネルギーによる復興から地域の発展へ、2020年以降に続く長期的な方向性も見えてきた。
*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −北海道・東北編−」をダウンロード
2015年版(3)岩手:「鉄と魚のまちがエネルギーのまちへ、太平洋の波と風を電力に」
2014年版(3)岩手:「森林から牧場までバイオマス全開、メガワット級の発電設備が増殖中」
2012年版(3)岩手:「風力と地熱の発電可能量は全国2位、再生可能エネルギーを35%に」
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