水素を常温で「液化」、大量水素社会へつながるか自然エネルギー

水素を再生可能エネルギーの媒体にできないか。課題の1つが、水素の貯蔵、輸送だ。ガスのままでは扱いにくい。液体にできないか。千代田化工建設はトルエンに水素を添加し、取り出す技術を確立し、実証実験プラントで商業ベースの運転が可能なことを示した。

» 2013年06月04日 13時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 再生可能エネルギーを電力以外の形に変えて貯蔵し、必要に応じて輸送する。これを低コストで大規模化できれば、化石燃料を中心としたエネルギーシステムを変えていくきっかけとなるはずだ。

 電力以外の形として期待が掛かるのが水素だ。電力を水素に変える、水素から電力を取り出す、このような技術の開発は進んでいる。効率も高い。課題があるのが水素の貯蔵と輸送だ。少量であれば問題はないが、大量貯蔵、大量輸送となると難しくなってくる。

 水素は常温ではガスであり、ガスのままでは体積が大き過ぎる。体積当たりのエネルギーはメタン(CH4)を主成分とする天然ガスの3分の1だ。

 液化すればどうだろうか。石油を分解して取り出したブタン(C4H10)やプロパン(C3H8)は常温であっても圧力をかければ液化する。いわゆるLPG(Liquefied Petroleum Gas、液化石油ガス)だ。ブタンはカセットガスボンベとして販売されており、なじみ深い。

 しかし、水素は違う。いくら圧力をかけても常温では液化せず、−253℃という極低温が必要だ。これでは大量貯蔵、大量輸送は無理だ。

トルエンを使って水素を「液化」する

 そこで考え出されたのが、水素を別の物質に加えて、必要に応じて取り出す手法だ。水素吸蔵合金やハイドライドへの貯蔵がある。ハイドライド法には無機物、つまりカルシウムやマグネシウムなどの金属に加える方法の他、有機物に加える方法もある。有機物を使った有機ハイドライド法は、重量当たりの水素密度で見ると水素吸蔵合金よりも良いが、無機ハイドライドよりも低い位置にある。体積当たりの水素密度では他の手法よりもいくぶん劣る。しかし、大量貯蔵、大量輸送を前提にすると、密度に劣ることよりも液体として貯蔵、輸送できることが重要だ。信頼性・安全性も高くできることから有望視されてきた。

 有機ハイドライドの課題は反応が遅いことだ。有機物に水素を加える反応はよいものの、有機物から水素を取り出す反応が遅い。ここに革新を加えたのが千代田化工建設だ。2004年に白金ナノ粒子を使った脱水素触媒を開発した。これは世界初の実績だという。次は大規模化だ。

 2013年には同社の子安オフィス・リサーチパーク(横浜市神奈川区)に有機ケミカルハイドライド法による「大規模水素貯蔵・輸送システム」実証実験用のプラントを建設(図1)、2013年5月末には、実証実験に成功したと発表した。水素の大量輸送や長期貯蔵が商業ベースで可能だと主張する。

図1 実証実験用のプラントの外観。出典:千代田化工建設

 同社が使ったのは「トルエン(C7H8)」と「メチルシクロヘキサン(MCH、C7H14)」だ。図2の中央に描いたトルエン1分子に水素3分子を加えると、発熱しながら図1の左にあるMCHに変化する。これが水素の貯蔵に相当する。この逆の反応で水素を取り出すことができる。しかし反応が起こりにくいため、脱水素触媒を使う。

図2 水素をトルエンに貯蔵し、取り出す反応

 トルエンは工業用原料として大量に使われている物質だ。入手も容易であり、工業上の取り扱い方法が確立している。トルエン、MCHとも沸点は100℃程度なので、常温では液体だ(図3)。特別な液化処理は必要ない。

 実証実験プラントは1時間当たり50Nm3の水素を発生する能力があり、容量20m3のMCHタンクに約1万Nm3の水素を貯蔵できる。これは1週間分のタンク容量に相当する。

 同社はLNGプラントの実績が多く、国内の水素プラントの約半数を建設している。今回の技術開発の成功を受けて、今後、水素サプライチェーンを運営する事業会社を設立する予定である。

図3 実証実験用のプラントに備わるトルエンとMCHのタンク。出典:千代田化工建設

【更新情報】 記事公開後、2013年7月10日に図1と図3を追加しました。

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