「木」を使って大規模発電、石炭火力と共存可能自然エネルギー(1/2 ページ)

石炭火力は火力発電の中では低コストであり、燃料の調達にも課題が少ない。問題は大量に二酸化炭素を排出することだ。これを抑えるために木質バイオマスを混ぜ込んで燃やす試みが進んでいる。だが、石炭専用の発電所に「木」を投入することは可能なのか。全国6カ所の発電所で進んでいる実証運転の内容を紹介する。

» 2013年07月10日 13時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 石炭火力は日本の火力発電の4分の1を担う太い柱だ。石油やLNG(液化天然ガス)と比較して熱量当たりの価格が低く、価格の変動も少ない。定常的な火力発電に向く性質だ。

 欠点は二酸化炭素(CO2)を大量に排出すること。設備の建設や燃料輸送、保守までライフサイクル全体で発生するCO2の量は、最も効率のよいLNGコンバインド火力と比較して2倍、効率の低い石油火力と比較しても約3割も多い。「バイオマス混焼発電」に関心が集まるのは、石炭とバイオマスを混ぜて発電すれば、出力を下げずにCO2の排出量を低減できることだ。

 では、どの程度バイオマスの利用比率(混焼率)を高くできるのか、元々石炭専用に設計されている設備にバイオマスを混ぜても問題は生じないのか、そもそも発電に使うほどのバイオマスが安定して入手できるのか。これを確認するには実際の石炭火力発電所で実証運転を進めるしかないだろう。

 新エネルギー導入促進協議会が実施する「林地残材バイオマス混焼発電実証事業」はこのような発想で進んでいる。石炭火力を運転する事業者に補助金を交付し、バイオマス用の設備を追加、実際に発電する。5事業者の6つの発電所における2012年度の実証運転の結果が、2013年7月に公表された。

図1 山林から発電所までの木質バイオマスの流れ。出典:新日鉄住金

 この実証事業では、バイオマスとして全て「木質バイオマス」を利用している。スギなどを伐採して、丸太、さらには板材に加工する過程を追うと、まず、枝や葉が山林で取り除かれ、次に製材所で樹皮や木材の切れ端が余る(図1)。特に山林に残る「林地残材」が無駄になっており、現在9割以上の林地残材が利用されていない。そこで、木質バイオマスとして林地残材を主に利用した。

木質よりも石炭の品質に依存

図2 実証運転の対象となった火力発電所の位置

 実証運転を進めたのは、以下の6つの既存の石炭火力発電所だ(図2)。新日鉄住金の釜石火力発電所(岩手県釜石市)、中国電力の三隅発電所(島根県浜田市)、同じく中国電力の新小野田発電所(山口県山陽小野田市)、住友共同電力の新居浜西火力発電所(愛媛県新居浜市)、電源開発の松浦火力発電所(長崎県松浦市)、九州電力の苓北発電所(熊本県苓北町)。

 以下では順に実証運転の特徴を挙げる。釜石で利用したのは2000年に運転を開始した第1号発電設備(14.9万kW)であり、通常は微粉炭ボイラーと再熱復水タービンを組み合わせた石炭焚き汽力発電が動いている。

 釜石で検証したかったのは、石炭にどの程度まで木質バイオマスを混ぜることができるのかだ。木質バイオマスは水分を大量に含んでいるため、この影響も確かめた。

 まず、補助金を利用して、木質バイオマスチップ受け入れ設備と、石炭コンベヤーにつながる木質バイオマス搬送コンベヤーを建設した。石炭側の設備や火力発電所自体にはほとんど手を入れていない(図3)。バイオマスチップ自体の製造は三陸バイオマスに依頼した。

図3 原料受け入れからボイラーまでの流れ。出典:新日鉄住金

 2012年5月から2013年3月まで連続混焼運転を実施したところ、期間の合計で、林地残材7605トンから、バイオマス3351トンを製造。これを36万710トンの石炭と混焼できた。混焼率は0.9重量%、バイオマス依存度は0.52%となった。バイオマスからは4453MWhの電力を得たことになる。結果として、CO2を約4300トン削減できた。

 新日鉄住金の検証計画では、年間を通じて混焼率2.0重量%を安定運転できるかを調べることになっていた。まず、2.0重量%まで木質バイオマスを混合しても設備に影響はなかった。しかし、年間を通じて2.0重量%を維持することはできなかった。なぜか。

 石炭側の課題が明らかになったことが興味深い。2012年8〜11月は混焼率が0.36〜0.83%と特に低い。これは大雨により、石炭の水分が増え、(木質バイオマスが混ざった)石炭を微粉に加工する「ミル」の能力が低下したためだ。さらに、2012年5月と12月は発電に使った石炭がもともと硬く、粉砕性が悪かったため、混焼率が低くなっている。釜石では、9種類の石炭を使っているため、時期によって石炭の性質がばらつくということだ。加えて、2012年は電力需給のひっ迫が課題となっていたため、安定稼働を優先しなければならないという条件もあった。

 なお、炭種のかたよりが結果的に少なく、低温のため発電効率が高く、雨の少ない冬季(2月、3月)は混焼率を1.8〜1.84重量%まで高められた。

 今回の実証運転ではもう1つ検証項目があった。木質バイオマスの水分量だ。原木の水分量は45〜50%と高かったが、加工後の木質バイオマスの水分量は、三陸バイオマスの乾燥工程により年平均24%まで下がったという(目標は20%)。今後も実証運転を続け、特に混焼率の向上を試みるとした。

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