リチウムを地熱発電から得る技術、2013年末には商業プラントの建設開始自然エネルギー(1/2 ページ)

伊藤忠商事が出資する米Simbolは、地熱発電所が排出する熱水かん水から高純度の炭酸リチウムを分離することに成功した。同技術を用いた商業プラントの建設を2013年末に開始、年産1万5000トンの生産能力は世界需要の1割弱に相当する。

» 2013年10月17日 16時20分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 伊藤忠商事は2013年10月、地熱発電所から供給を受けた熱水から純度99.9%以上の炭酸リチウムを分離することに世界で初めて成功したと発表した。

 分離に成功したのは伊藤忠商事が2010年6月に株式の20%弱を取得した米Simbol。カリフォルニア州ソルトンシーに立地する他社の地熱発電所に隣接してデモプラントを建設し、地熱発電所から「地熱かん水」の供給を受けて、炭酸リチウムを得た(図1)。

図1 米Simbolの炭酸リチウム分離施設。出典:伊藤忠商事

 地熱発電では熱水と蒸気を同時に得る場合がある。熱水はタービンのブレードを痛めることから、地中から取り出した後に気水分離器で分離する(関連記事)。図2の左下にある円筒状の部分が気水分離器、左中央がタービンである。「ソルトンシーで得られる260度の熱水は炭酸塩を多く含むかん水であり、デモプラントでイオン交換膜のような特殊な膜を用いて炭酸リチウムを分離した」(伊藤忠商事)。

図2 地熱発電所(左)に隣接する米Simbolの炭酸リチウム分離施設(右)。出典:伊藤忠商事

 炭酸リチウムは水酸化リチウムと合わせてリチウムイオン電池の正極材*1)に欠かせない原料だ。伊藤忠商事によれば炭酸リチウム換算で表した需要は現在年間15万トン。これが2017年には25万トンを超えるという。しかし、リチウム塩の7割は南米の塩湖由来のかん水であり、かん水を天日乾燥して生産されている(関連記事)。このため、生産能力に限界がある。

 伊藤忠商事の狙いは高熱の地熱かん水を利用することで、天候に作用されず少ないエネルギーコストで炭酸リチウムを得ることだ。大面積の蒸発池も不要だ。今後、2013年末までに年産1万5000トンの商業プラント1号機の建設を開始し、2015年度に商業生産開始を予定している。「今後ソルトンシーの地熱発電所がスケールアップする際に今回の技術を適用できる他、北米にあるソルトンシーと似た立地に新たに建設される地熱発電所からも炭酸リチウムを取り出すことが可能になる」(伊藤忠商事)。

 伊藤忠商事はSimbolの炭酸リチウムについて日中韓などアジア地域の総販売代理店契約も取得している。

*1) リチウムイオン蓄電池は、グラファイト(炭素)などからなる負極と、リチウム金属酸化物からなる正極、両極を分離するセパレータ、リチウムイオンの移動を助ける有機電解質塩などからなる。電池の容量や出力に大きな影響があるのが正極の材料だ。

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