浄水場に向く「きれいな発電機」、水自体で羽根を支える自然エネルギー

川崎重工業の「リング水車」は浄水場など、水質を重視する場所への設置に向く。水潤滑軸受を採用し、装置内部の1つの部品だけが回転する構造とした。清潔で音や振動が起こらず、寿命が20年と長い。

» 2014年03月05日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 「当社の『リング水車』は水自体を潤滑に使うため、水質に影響を与えないことが特徴だ。浄水場への設置に最も向いた小水力発電装置だと自負している」(川崎重工業)。

 同社はリング水車の模型を東京で開催された「第4回国際スマートグリッドEXPO(スマートエネルギーWeek2014)」(2014年2月26〜28日)に出展した(図1)。図1は出力75kWのリング水車の2分の1サイズの模型だ。模型は一抱えで持ち上げられる大きさである。

図1 リング水車の外観(模型)

 リング水車の特徴は4つある。まずは小型だということだ。「水車と永久磁石型同期発電機が一体化しており、同出力であれば他社製品の体積の60%と小さい」(同社)。さらに水を流している本来の配管の間に挟み込むように直列に設置できるため、設置スペースが限られている場合にも向いている(図2)。

図2 設置イメージ(左)と実際に設置されたリング水車(右)

 第2の特徴は冒頭の発言にあるように、装置内部の回転部分を支える軸受けが水潤滑軸受となっていることだ。図1の模型のうち、回転するのはランナと呼ばれる赤い部分だけ(図3)。羽根と永久磁石が一体化した円形の部品だ*1)。ランナの周囲にはベアリングなどは備わっておらず、水の膜が支える形だ。オイルなどを一切利用していないため、水質に敏感な用途に向く。

*1) リング水車は反動水車の一種で、水流が直接羽根に当たることで回転力を生んでいる(関連記事)。

図3 リング水車の内部構造

 以下の2つの特徴は水潤滑軸受を採用したことで生まれた。まず、動作時に騒音が少なく、振動しない。特別な騒音・振動対策が不要である。音や振動を生むような機械的な接触部分がないためだ。

 第4の特徴は長寿命であること。「基本的に摩耗する部分がない。このため、寿命が20年と長い。メンテナンスフリーをうたっている」(同社)。リング水車にスキがあるとすれば、水が流れない場合に軸受が動作しないことだ。「最低回転速度が保証されないと、軸受の動作が安定しない。そのため、水潤滑軸受には外部から水を供給する構造を採った」(同社)。

浄水場での採用が相次ぐ

 リング水車は複数の浄水場に採用されている。金沢市企業局が管理する末浄水場では2012年2月に出力42kWの装置が発電を開始した。落差は15m(緩速系原水導水管の遊休落差)あり、年間約36万kWhを発電、浄水場の年間使用電力の約35%をまかなう。総事業費は約1億1600万円だ。

 2013年6月には山形県企業局が管理する平田浄水場(山形県酒田市)で出力50kWの機種の運用が始まった。最大有効落差は39.59m、最大使用水量は0.208m3/秒。年間発電量は金沢市と同じく約36万kWhであり、浄水場の年間使用電力の約77%をまかなう。工事費は約8789万円である。

 今後は、横浜市の浄水場への導入が予定されているという。

 「リング水車を設置する場合の工期は9〜10カ月だ。ただし、ランナ部分などを受注生産としているため、企画から運転までの期間はこれよりも長くなる」(同社)。

 小水力発電の出力が有効落差と流量の2つの条件によって決まり、設置場所の条件に最適なランナを製造する必要があるからだという。「羽根の角度などを条件に合わせて最適化する」(同社)。水車の直径は200mm、300mm、450mmの3種類がある。2つの条件に応じて図4のように使い分ける形だ。条件が決まると出力もほぼ決まる。リング水車の出力は20kW〜315kWの範囲にある。

図4 出力を決めるのは有効落差と流量

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