気温40度でも問題なし、アラブの砂漠にエネルギー都市スマートシティ(3/4 ページ)

» 2014年06月04日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

中東らしいスマートビル

 スマートビルは日本国内でも建設が相次ぎ、難易度が高いゼロエネルギービルの実現も視野に入ってきた(関連記事)。

 アブダビに立地するマスダールシティには、日本とはかなり異なる不利な条件がある。高温環境だ。毎年5月から10月の期間、アブダビの最高気温は連日のように40度を超える。実際に2014年6月2日の最高気温は43度、最低気温は24度だ。この熱をうまく処理できなければスマートビルは絵に描いた餅になる。

 マスダールシティでは最新のICT技術と中東の伝統的な都市の構造とを組み合わせた。ICT技術の利用は徹底している。マスダールシティには照明のスイッチがない。水道にもハンドルがない。モーションセンサーを全面的に導入したためだ。モーションセンサーによって、人が利用するときにだけ照明や水道が機能する。これでアラブ首長国連邦の平均と比較して、消費電力の水準を51%、水使用量を54%と低く保つことができた。いわゆるスマートメーター技術を取り入れており、電力事業者が住民ごとの電力使用量を把握しており、需要供給分析に生かしている。

 中東の伝統的な都市の構造とは次のような考え方だ。太陽から受ける熱を最小にし、影を作り出す。柱を組み合わせて影を作ることで生活空間を確保する。同時に冷たい風を上空から取り入れる。曲がりくねった細い道が複雑に絡み合う中東の伝統的な市場のような構造だ。

 マスダールシティでは道路の端にあるビルによって上昇気流を作り出すように設計されている。道路の温度を低く保つ効果があるという。中東の伝統建築「ウインドタワー」も現代風にアレンジした。ウインドタワーは上空の冷たい風を地表面に導くために使われてきた設備だ。

図4 マスダール科学技術大学にある「タワー」 出典:アブダビMasdar

 マスダール科学技術大学にはウインドタワーを現代風に改良した設備が設けられている。図4の中央にあるタワー(高さ45m)だ。センサー技術を利用して風の向きに応答できる他、上部にミスト発生装置を設けている。気化熱を利用して風の温度を下げることが可能だ。アブダビ市内の典型的なビル街では気温が37度の場合、ビルの表面温度は38度、道路(アスファルト)の温度は57度に達する。これでは路面からの輻射熱だけで参ってしまう。

 図4の周囲では気温が39度の場合、ビルの壁面は35度、地表は33度に保たれる。エネルギーをほとんど使わない「冷房」である。

図5 マスダール科学技術大学の居住棟(左)と研究棟 出典:アブダビMasdar

 ビルの壁面にも伝統的な工夫がある。図5の左側にある茶色のビルは同大学の居住棟。壁面には砂嵐に強いガラス強化コンクリートを利用している。壁に開いた穴は、プライバシー保護のための工夫だ。中からは外が見えるが、外からは中が見えない。これはMashrabiyaと呼ばれるイスラム建築の伝統的な格子模様だ。

 図5の右側のビルは同大学の研究棟だ。こちらは外壁にフッ素樹脂コーティングを施し、内側に気密性の高いパネルを用いて断熱効率を高めている。窓にある斜めの板は「ルーバー」だ。太陽の高度によって、縦のルーバーと横のルーバーを使い分ける構造を採る。建物の色は白いが、光をあまり反射せず、地表の温度を低く保つ。研究棟では屋根に設置した太陽電池モジュールによって、電力需要の30%を満たしており、建物内で使われる温水の75%は太陽熱で作り出している。

図6 ナレッジセンターの外観 出典:アブダビMasdar

 図6にあるゴツゴツした外観の建物は同大学のナレッジセンター(図書館)だ。屋根が手前に大きくせり出しているため、効果的に日陰を作り出すことができる。このため、建物の内側では太陽熱の影響を考えなくてもよくなり、大きな窓を設置できた。奇妙な屋根の形状は太陽電池モジュールの設置にも適しているという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.