水田を潤す用水路で小水力発電、37メートルの落差を生かして280世帯分自然エネルギー

稲作が盛んな福井県の内陸部で、農業用水を活用した小水力発電所が運転を開始する。洪水と干ばつを繰り返してきた河川にダムと用水路を整備して8年が経過したところで、新たに未利用の水力エネルギーを生かして発電事業を実施することにより用水路の維持管理費を軽減する狙いだ。

» 2014年06月06日 07時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 福井県の中央を流れる日野川の流域には水田が広がり、水を安定して供給するために「日野川用水」がはりめぐらされている。幹線と支線を合わせて170キロメートルの農業用水路で、4つの市と町にまたがる5000万平方メートルの水田を潤す。この用水路の水流を活用した「日野川用水発電所」が6月8日に運転を開始する(図1)。

図1 「日野川用水発電所」の位置と用水路。出典:日野川用水土地改良区

 農業用水路では幹線から水流を分けるために、「分水工(ぶんすいこう)」と呼ぶ施設を主要な地点に設置している。分水工には水流の落差が必要で、小水力発電に適した場所になる。日野川用水発電所は分水工に水流を送り込むために造られた37メートルの大きな落差を利用して発電する仕組みだ(図2)。

図2 小水力発電の仕組み。出典:日野川用水土地改良区

 発電能力は141kWあって、年間の発電量は102万kWhを想定している。一般家庭で280世帯分の電力使用量に相当する。発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に約3500万円の収入を得ることができる。売電収入は用水路の維持管理費の低減に生かす方針だ。

 発電所を建設する総事業費は2億1000万円かかった。総事業費のうち50%を国が負担して、30%を福井県、残り20%を地元の自治体と用水路を管轄する日野川用水土地改良区が分担した。

 発電設備の利用効率を表す設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は83%で、小水力発電の中でも高い水準になる(通常は60〜70%程度)。農業用水は季節によって水量が変わり、それに伴って発電量も変動する。水を必要としない冬の「非かんがい期」や、田植えの直前に大量の水を必要とする春の「代掻期(しろかきき)」の前後で水量の変化が激しい(図3)。

図3 発電に利用する水量の変化(単位:立方メートル/秒)。出典:日野川用水土地改良区

 水力発電の発電量は水量と落差で決まるため、年間を通じて安定した水量を利用できる状態が望ましい。日野川用水発電所の場合は、水量が少なくなる期間が春先の1カ月強で短いことから高い設備利用率になる。

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