「NAS電池」を3000kW導入、国内で3年ぶり蓄電・発電機器(1/2 ページ)

日本ガイシは独自の蓄電池である「NAS電池システム」を3年ぶりに国内向けに納入した。納入先は医療用医薬品メーカーであるマルホの彦根工場。マルホの目的は3つ。瞬低対策、非常電源、電力負荷平準だ。1000分の5秒で最大出力に達し、そのまま7時間以上動作する。通常時はピークカットに役立つ。

» 2014年08月07日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 マルホ彦根工場(滋賀県彦根市)の位置

 日本ガイシは2014年8月、医療用医薬品メーカーであるマルホの彦根工場(滋賀県彦根市高宮町)に納入した出力3000kWの大型蓄電池「NAS電池システム」が運転を開始したと発表した(図1)。「3年前の2011年9月に起きた火災事故後、国内向けの案件として初めてのものだ」(日本ガイシ)*1)

 図2は工場内に設置されたNAS電池システムの様子。手前に3つ並んだ白い「箱」の中に設備を収めた。日本ガイシは出力1200kWを標準システムとしている。3つのうち、一番右側のみ容量が600kWと小さい。

 設置面積はどの程度なのだろうか。日本ガイシによれば、一般に3000kWのNAS電池システムを設置するには約473m2の土地が必要だという。NAS電池システムは大きく2つの要素からなる。NAS電池自体と、NAS電池の直流入出力を6600Vの交流と変換する装置だ。NAS電池側は保有空地を含めて約390m2(うちNAS電池が115m2)。変換装置は約83m2だ。

*1) 火災が起こったのは三菱マテリアルの筑波製作所に納入され、東京電力が所有する2000kWのシステム。日本ガイシは火災事故後に原因を究明し、納入済みの全電池の改修を進めるため、電池製造工場の稼働を2012年6月に再開した。2012年11月からは新規の生産を開始し、イタリアの電力会社向けに新規案件を受注している(関連記事)。

図2 彦根工場に設置したNAS電池システム(手前の3つの箱) 出典:日本ガイシ

なぜNAS電池を導入?

 NAS電池は定置型用途に適した性質を持ち、大型のシステムとして利用されることが多い蓄電池だ。マルホが彦根工場にNAS電池システムを導入した理由は、3つあるという。瞬低対策、非常電源、電力負荷平準だ。

 瞬低(瞬時電圧低下)とは、停電に至らないものの、系統から購入している電気の電圧がごく短時間下がる現象をいう。雷によって引き起こされることが多い現象だ*2)。瞬低は工場の生産ライン停止の原因となり、ラインが不意に停止すれば製造中の医薬品に不良が起きる。NAS電池システムは0.005秒(5ms)以内に3000kWの電力を供給できるため、瞬低用途に利用できる。日本ガイシによれば電撃が連続して発生する多重雷にも対応できるという。

 非常電源用途にも適する。今回納入したシステムの容量は2万1600kWhある。出力が3000kWであれば、7.2時間供給可能だ。

 電力負荷平準とは、夜間の安価な電力を貯蔵し、昼間に供給するというもの。昼間に購入する系統電力が減り、ピークカットに役立つ。容量のうち、一定部分は瞬低や停電のために残しておくよう運用する。

 「当社が考えるNAS電池の最大のターゲット市場*3)は再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統安定化用途だ。しかし、国内で系統安定化問題が顕在するのは2020年だと考えている。それまではBCP(事業継続計画)対策の一環として、民間のユーザーの瞬低対策ニーズなどを掘り起こしていく計画だ」(日本ガイシ)。

*2) 送電線に落雷すると、その部分の電圧が極めて高くなり、鉄塔との間でショート(故障電流)が起こる。鉄塔へ大量の故障電流が流れると、送電電圧が下がってしまう。これが瞬低の原因だ。瞬低の継続時間は0.1秒程度。滋賀県によれば、彦根市は近畿地方でも落雷が多い地域なのだという。
*3) NAS電池の世界市場における導入規模は約6万kW、納入箇所は30カ所である。

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