「はやぶさ」の電力制御を家庭にも、HEMSを使わずに最大電力を抑制エネルギー管理

小惑星探査機の「はやぶさ」が地球に帰還して注目を集めたのは2010年のことだ。はやぶさでは限られた電力を有効に活用するために、各装置が消費する電力量を制御できる独自の技術を使った。開発したJAXAは家庭やオフィスの節電にも生かせるように民間企業と共同で事業化を進めていく。

» 2014年09月29日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 「はやぶさ」に独自の電力制御技術を搭載した理由は、推進力を得るためのロケットエンジンに大量の電力が必要になるからだ。エンジン以外にも多数の装置が電力を消費することから、全体の電力使用量を常に一定の範囲に抑えてエンジン用の電力を確保しなくてはならなかった(図1)。

図1 「はやぶさ」の外観と主要な装置(左)、電力制御のイメージ(右)。出典:JAXA

 はやぶさを開発したJAXA(宇宙航空研究開発機構)が採用した方法は、各装置が電力の使用状況を発信して、その情報をもとに個々の装置が全体最適のアルゴリズムで電力使用量を制限するものだ。各装置で並列に処理が進むために素早い制御が可能で、機器の追加・削除にも簡単に対応できる。

 通常のHEMS/BEMS(家庭/ビル向けエネルギー管理システム)のように中核のコントローラが各装置の電力使用量を管理・制御する方式と比べて、導入や拡張が簡単でコストも安く済むメリットがある。JAXAが家庭を想定して実装した例では、無線通信のZigBeeで各装置から情報を送り、それをもとにエアコンなどの設定温度を変更して電力使用量を調整できるようにした(図2)。

図2 家庭に適用する場合の構成例。出典:JAXA

 JAXAは家電製品などに組み込むためのモジュールも試作した。電力使用量を最適化するための制御モジュールのほか、エアコンなどで温度調整に使われるインバータを制御するモジュールなどだ(図3)。これらのモジュールを量産化するメーカーや家電に組み込むメーカーを募って事業化を急ぐ。宇宙で使われた電力制御技術が家庭やオフィスに広がる日は近いかもしれない。

図3 JAXAが試作した「動的電力制御モジュール」(左)、「PWM変調器」(中央)、「エアコンドライバーインタフェース」(右)。出典:JAXA

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