月の赤道上に太陽電池を並べる「ルナリング」キーワード解説

もちろん未来の話だが、20年後には建設が始まっているかもしれない。月面に太陽電池を並べて、発電した電力を地球へ伝送する。そんな大胆な構想を清水建設が打ち出した。月の赤道上に幅400キロメートルで太陽電池を設置すれば、2035年に全世界が必要とするエネルギーを供給できる――。

» 2013年12月20日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 月には水分がほとんど存在しないために、雲がかかって太陽光を遮るようなことは起こらない。月面の半分は常に太陽に照らされている。となれば、天候に左右されることなく、安定した電力を供給できる太陽光発電が可能になる。「月太陽発電 ルナリング(LUNA RING)」の発想の原点である。

 清水建設が未来の再生可能エネルギーとして提唱しているルナリングは、その名前が表すように、月面に輪を描くように太陽電池を並べる(図1)。月は地球と同じように自転している。月の赤道上に連続して太陽電池を設置すれば、自転しても同じ数の太陽電池が光を受けて、常に一定の出力で発電を続けることができるわけだ。

図1 月の赤道上に太陽電池を並べる「ルナリング」。出典:清水建設

 残る課題は、地球まで電力を送電する方法である。清水建設の構想ではマイクロ波とレーザー光を併用する(図2)。マイクロ波は地球の上空にある大気を透過する率が98%と極めて高く、地球上で緯度の高い地域でも効率よく受信することができる。一方でレーザー光は雲の少ない赤道付近の洋上や砂漠で受光して、電力に変換する。

図2 「ルナリング」によるエネルギー供給の流れ。出典:清水建設

 月面には太陽電池のほかに、送電アンテナや送光施設を建設する必要がある。地球上でも陸地にはマイクロ波の受電施設、洋上や砂漠にはレーザー光の受光施設を建設する。数多くの施設が必要で、建設会社が未来の新市場を切り開く狙いもルナリングに込められているのかもしれない。

 IEA(国際エネルギー機関)の予測では、全世界のエネルギー需要は今後も増え続けて、2035年には150〜170億toe(石油換算トン)に達する見込みだ。これと同じ量のエネルギーをルナリングで作り出すためには、月の赤道上に幅400キロメートルにわたって太陽電池を設置する必要がある、と清水建設は試算している。これも膨大な建設作業を伴う。

 現時点でルナリングの実現性は予測できないが、夢のある話であることは確かだ。ちなみに建設用の素材だが、月の砂は酸化物でできていて、地球から水素を送り込めば酸素と水ができるという。さらに砂と砂利と水を混ぜれば、月でもコンクリートを作ることができる。あとは工事用の機材を月まで運んで、地球から遠隔操作で作業する。

 清水建設の計画では、国際的な協力によって2035年にも建設を開始できる可能性がある。わずか22年後のことである。

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