太陽光発電の3つの課題−用地、連系、安定稼働−再生可能エネルギーの現実(1)

2012年7月から固定価格買取制度が始まったことで、企業や自治体が太陽光発電に取り組む動きは全国各地へ急速に広がっている。未利用の土地を活用して安定した収益を上げられるからだが、一方でさまざまな課題も浮かび上がってきた。

» 2013年08月12日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 いま日本全国いたるところで、太陽光発電フィーバーと呼べるほど数多くの建設プロジェクトが進んでいる。資源エネルギー庁によれば、2012年7月に固定価格買取制度を開始して以降、発電能力が1MW(メガワット)以上のメガソーラーで認定を受けた件数は8カ月間(2013年2月末時点)で1755件にのぼっている。1つの都道府県あたり40件近い数になる。

 太陽光発電は5種類の再生可能エネルギーの中で環境に対する影響が最も小さく、発電設備を導入するまでのプロセスが短くて済む。市場の拡大に伴って太陽光パネルの価格も低下して、ますます導入しやすくなってきた。未利用の土地を保有する企業や自治体が続々とメガソーラーの建設に乗り出している。

建設前と建設後にも課題がある

 とはいえ海外の主要国と比べると、太陽光発電を含めて日本の再生可能エネルギーの導入量は極めて少ない。2012年度でも日本全体の総発電量のうち、わずか1.6%を占めるに過ぎない(図1)。これから相当なペースで増やしていく必要があるが、日本特有の問題もあって、計画通りにプロジェクトが進まないケースも多い。

図1 国内の総発電量に占める再生可能エネルギーの割合。出典:資源エネルギー庁

 太陽光発電で注意すべき課題は3つある。第1に建設用地の問題だ。広大な空き地があっても、法律によって建設が認められない場合がある。第2の課題は電力会社の送配電ネットワークに接続できないケースだ。状況によっては接続を拒否されて、発電した電力を買い取ってもらうことができなくなる。

 そして第3の課題は、発電設備を運転開始した後に起こる。当初に想定したような発電量に達しないことがある。太陽光パネルに不具合が生じたり、性能が急速に劣化したりすることは珍しくない。その結果、期待した売電収入を得られずに、投資を回収できなくなる恐れがある。

農山村地域に残る「農地法」の壁

 用地に関しては法律の制約が大きい。特に問題になるのが「農地法」である。健全な農業の発展を目的に作られた法律で、農地の利用法を厳格に定めている。原則として農地に指定されている土地を農業以外の用途に使うことはできない。長年にわたって農作物を作っていない「耕作放棄地」も規制の対象になる。

 全国各地の自治体が太陽光発電を導入できる可能性のある場所を調べると、その中に耕作放棄地が数多くある(図2)。農作物の代わりに太陽光発電で収入を得ることができれば、耕作放棄地は新たな収益源に生まれ変わる。

図2 耕作放棄地における太陽光発電のポテンシャル(茨城県の例)。出典:GIS総合研究所いばらき

 2013年3月に農林水産省が新たな方針を発表して、一定の条件を満たせば農地に太陽光発電設備を導入することが可能になった。太陽光パネルを設置する支柱を高くするなどして、パネルの下で農業も継続できるようにすることが条件だ。ただし耕作放棄地の取り扱いについては検討課題のまま残されている。農林水産省の迅速な対応が望まれる。

避けて通れない電力会社との「連系」

 第2の課題である送配電ネットワークへの接続に関しては、徐々にだが対策は進みつつある。太陽光発電と風力発電は天候によって出力が安定しないために、発電した電力を受け入れる送配電ネットワークに支障が生じてしまう可能性がある。特に規模の大きいメガソーラーが増えると、その確率が高くなる。

 発電設備を送配電ネットワークに接続することを「連系」と呼び、設備を建設する前に電力会社とのあいだで「連系協議」の場を設けなくてはならない。この協議を通じて発電設備を送配電ネットワークに接続するための具体的な方法を決める必要がある。送配電ネットワークに支障が生じると判断されれば、電力会社は接続を拒否することが可能だ。

 現実に北海道ではメガソーラーの建設プロジェクトが急増した結果、送配電ネットワークの許容範囲を超えるような状態に近づいてしまった。経済産業省は2013年4月に通達を出して、北海道内でメガソーラーの建設を控えるように事業者に要請したほどである。

 そのうえで緊急対策として、大型の蓄電池を使って太陽光発電や風力発電による出力の変動を抑制する実証実験を電力会社が進めている(図3)。発電事業者の中にはメガソーラーの設備に蓄電池を併設する取り組みも見られる。その分の設備費が増えるものの、事業全体で収支が成り立てば、メガソーラーを長期に安定して稼働させるための対策としても有効である。

図3 大型蓄電池を使った太陽光・風力発電の出力変動対策。出典:北海道電力、住友電気工業

安定稼働のために発電設備の点検と保守を

 運転を開始した後に安定稼働を続けるためには、さまざまな対策が必要になる。特に重要なことは発電設備の点検と保守である。メガソーラーのような規模になると、何千枚もの太陽光パネルが使われる。屋外に設置されていることもあり、不具合が生じて発電できなくなるパネルが出てくる。それを放置しておくと、当然ながら発電量は少なくなる。

 たとえ不具合が生じなくても、時間の経過とともに性能が劣化する。製品によって劣化の度合いにも違いがある。検査機関によると、1年も経たないうちに性能が大幅に落ちてしまう太陽光パネルもあるようだ。

 そうした事態に備えて、遠隔監視システムを利用する事業者が増えている。太陽光パネルからの発電量を専用の装置で計測して、そのデータを集めてシステムで分析する方法だ(図4)。合わせて日射量や気温も測定することで、適正な発電量を得られているかどうかを確認することができる。

図4 太陽光パネルの遠隔監視システム。出典:オムロン

 太陽光発電は気象条件によって発電量が変わるものの、その変動範囲は予測可能である。年間を通した総発電量は地域ごとに想定できて、大きく外れることは考えにくい。それよりも太陽光パネルの不具合のほか、雑草や積雪による太陽光の遮断など、運用面の問題で発電量が低下してしまう影響のほうが大きい。

連載第2回:「風力発電の3つの課題」

連載第3回:「小水力発電の3つの課題」

連載第4回:「地熱発電の3つの課題」

連載第5回:「バイオマス発電の3つの課題」

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