風力発電の3つの課題−環境影響、安全性、コスト−再生可能エネルギーの現実(2)

太陽光に続いて期待が大きい風力発電だが、本格的に拡大する状況には至っていない。最大の課題は環境に対する影響で、鳥類の保護のために計画の変更や縮小を迫られるケースが増えている。大型風車の落下事故が発生して安全性の懸念もある。洋上風力では建設・保守コストの問題が残る。

» 2013年08月13日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

連載第1回:「太陽光発電の3つの課題」

 政府が太陽光発電に続く再生可能エネルギーの切り札として期待をかけるのが風力発電だ。2013年度の国家予算でも、風力発電を対象にした補助金や実証研究に400億円以上を割り当てた。島国の日本には風の強い地域が多く、近海の洋上まで含めれば、大規模な発電所を建設できる余地が無限に広がっている。

 日本風力発電協会の予測では、これから陸上の風力が年々増えて、2035年までに発電規模が2010年の10倍になる。さらに2020年代から洋上の風力が急速に広がり、2050年には陸上の風力と同程度にまで拡大する見通しだ(図1)。その時点で陸上と洋上を合わせた総発電能力は5000万kWに達して、大規模な原子力発電所の50基分に相当する(ただし年間の発電量は3分の1程度)。

図1 風力発電の導入規模予測。出典:日本風力発電協会

 将来のエネルギー供給源として風力発電が果たす役割は極めて大きい。しかし現実には風力発電所の建設プロジェクトは期待ほどには進んでいない。簡単には解決できない課題がいくつかあるためだ。

 最も大きな課題は、自然環境に対する影響である。風力に限らず再生可能エネルギーといえども、環境に対する影響はゼロではない。地熱やバイオマス、規模の大きい水力発電では環境影響の調査と対策が義務づけられている。風力の場合は鳥類が風車にぶつかる危険性があるほか、洋上風力では海洋生物や漁業への影響を考慮する必要がある。

 その一方で大型風車の落下事故が相次ぎ、安全性に対する懸念も高まっている。環境影響の問題と合わせて、発電所を建設する地域の住民から理解を得ることが大きなハードルになってきた。

青森県で相次ぐ風力発電所の計画変更

 最近の1年間に青森県内だけでも、環境影響の問題を指摘されたプロジェクトが少なくとも3件ある。青森県は北海道と並んで風力発電に適した場所が多いところだが、貴重な鳥類が数多く飛来する地域でもある。大型の風車になると直径が100メートル近くにもなるため、回転する風車の羽根に鳥が衝突する可能性は決して小さくない。

 鳥類の保護を理由に計画変更を余儀なくされたプロジェクトのひとつが「むつ小川原風力発電事業(仮称)」である。当初は下北半島の太平洋側に42基の大型風車を建設して、日本で最大の126MW(メガワット)の風力発電所を建設する予定だった。ところが建設予定地の一部が希少な鳥類の生息・渡来地だったことから、場所を縮小して半分以下の規模に計画を作り直した(図2)。

図2 青森県の六ヶ所村で計画中の「むつ小川原風力発電事業(仮称)」。左が変更前、右が変更後の建設予定地(画像をクリックすると拡大)。出典:環境省、日立造船

 再生可能エネルギーは自然環境と共生できることが重要なテーマであり、貴重な動植物を保護することは当然の対策である。事業者は計画策定の初期段階から建設予定地の自然環境について十分に調査しておかないと、プロジェクトの途中で大幅な計画変更を迫られることになる。

防ぐことができた落下事故の教訓

 風力発電が抱える第2の課題は、安全性の確保である。2013年に入ってから、大型風車の落下事故が京都府と三重県で相次いで発生した(図3)。幸いにして人家に被害はなかったものの、直径80メートルにも及ぶ風車が落下することは近隣の住民にとって大きな脅威である。

 3月に発生した京都府の「太鼓山風力発電所」の事故は、5カ月が経過した8月現在でも原因を確定できていない。一方の4月に発生した三重県の「ウインドパーク笠取」の事故は原因の究明と対策が完了して、7月から部分的に運転を再開している。どちらの風力発電所も事故によって、事業計画に大きな狂いが生じる結果になってしまった。

図3 2013年4月7日に発生した「ウインドパーク笠取」の事故の状況。破損したタワー(左)と落下した風車(右)。出典:シーテック

 ウインドパーク笠取の場合は部品の一部に強度の弱い材質が使われていたほか、風車の過剰な回転を防止するためのシステムが正常に機能しなかった。事故当日は猛烈な強風が吹いていたとはいえ、本来は防ぐことのできた事故である。

 こうした事故を教訓にして、より安全な風力発電設備の建設と運営がすべての事業者に求められる。今後も落下事故が繰り返されるようだと、将来のエネルギー供給源として風力発電を拡大させることは難しくなる。

大規模な発電設備にコストの課題

 風力発電は太陽光発電と比べて規模の大きいプロジェクトが多く、事業に必要な資金も増大する傾向がある。最近のプロジェクトでは数十億円から数百億円の事業費をかけるケースが増えていて、事業者にとっては大きなリスクになっている。こうした建設と運営にかかるコストが風力発電の第3の課題だ。

 例えば太陽光発電はパネル1枚の出力が0.2kW程度であるため、枚数に応じて大規模にも小規模にも展開することができる。これに対して風力発電は大型の風車を使うと1基で2MW(2000kW)程度になる。太陽光パネルの1万倍の発電能力があるわけだ。しかも発電所の運営効率を考えると、複数の風車を設置して一体で運営するほうが望ましい。最近の風力発電所の建設プロジェクトが10MWを超える規模になっている理由がここにある。

 コストの問題は洋上風力の場合に顕著だ。洋上に大型の風車を設置するためには、波や潮による揺れの影響を抑える対策が必要になる。加えて電力を陸上の送配電ネットワークに供給するために、海底に送電ケーブルを敷設しなくてはならない。発電を開始した後も設備の点検や保守を洋上で実施することになり、陸上よりもコストがかかる。

 現在までに具体化している洋上風力発電では、前田建設工業が山口県下関市の沖合で計画しているプロジェクトが最も規模が大きい(図4)。15〜20基の大型風車を洋上に建設して、合計で60MWの発電能力を想定している。それぞれの風車をつなぐ海底ケーブルの距離は10キロメートルに及ぶ。建設期間は2年で、総事業費は250億円を見込んでいる。完成は2017年4月の予定だ。

 ただし洋上風力発電の収益性に関しては不確定な要素が残っている。固定価格買取制度では、洋上風力発電の買取価格が決まっていない。これまで国内の実績がないために、標準的な発電コストを算出できず、適切な買取価格を確定できない状況にある。

図4 山口県下関市の沖合で計画中の洋上風力発電。発電設備の設置イメージ(上)と建設予定地(下)。出典:前田建設工業

 現状では風力発電(出力20kW以上)の買取価格は22円で、太陽光発電(同10kW以上)の36円と比べてかなり低い。洋上風力は陸上と比べて発電コストが大きくなることは確実で、買取価格がいくらになるかで収益性が左右される。

 政府が洋上風力発電の買取価格を早く決めないと、事業者の取り組みは進んでいかない。2014年度には買取価格を決定することが重要な政策のひとつになる。

第3回:「小水力発電の3つの課題」

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