風力発電所の建設に立ちはだかる、「環境影響評価」の壁法制度・規制

全国各地で大規模な風力発電所の建設計画が進められているが、実際に建設を開始するまでには相当な準備期間を要する。最大の難関は「環境影響評価」だ。騒音や動植物への影響などを詳細に分析して国や自治体に報告書を提出し、3段階の審査を経たうえで認可を受けなくてはならない。

» 2012年12月07日 15時55分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 環境省が12月6日付けで、「大間風力発電所建設事業に係る環境影響評価準備書に対する環境大臣意見の提出について」と題する文書をウェブサイトに掲載した。発電事業者の電源開発(J-POWER)が青森県の大間町で建設を計画している風力発電所に対して、環境への影響を評価する項目の再検討、さらには騒音や動植物などに関する追加調査を求める内容になっている。

 この意見をもとにJ-POWERは次のプロセスとして「環境影響評価書」を作成して、環境省に提出する必要がある。その内容が認められた後に、工事計画そのものの審査を受けることができ、認可が得られれば建設を開始することができる。極めて手間のかかるプロセスが設けられており、風力発電所の建設を必要以上に遅らせかねない状況になっている。

風力より原子力が先行する可能性

 大間町といえば、マグロ漁で有名な、本州最北端の地。この自然豊かな町で、同じJ-POWERが原子力発電所の建設も進めており、いまやマグロだけではなく電力の世界でも注目を集めている。

 原子力発電所は津軽海峡に面した海岸が建設用地だが、風力発電所は海から離れた丘陵に風車を建てる(図1)。現在の計画では、発電能力が1950kWの大型風車を10基設置して、合計1万9500kW(19.5MW)の規模で2015年3月から運転を開始する予定になっている。

図1 大間風力発電所の建設予定地。出典:J-POWER

 すでにJ-POWERは2011年3月に「環境影響評価準備書」を経済産業省に提出済みで、工事の内容のほか、騒音や動植物など周辺環境についても調査結果を報告した。この報告書に対して地元の青森県や近隣の市町村が意見書を提出している。それを含めた形で環境省が追加調査の必要性を公表したわけだ。

10月の法改正で風力発電も規制の対象に

 風力発電所の環境影響評価については、10月1日から法律が改正されて厳しくなっている。従来は水力・火力・地熱のいずれかの方式で、一定の規模以上の出力がある発電所だけが「環境影響評価法」の対象だった。2012年10月から新たに出力7500kW以上の風力発電所も規制の対象に加えられた。

 この法改正によって、風力発電所の認可を受ける前の環境影響評価の手続きが複雑になり、工事開始までの準備に相当の手間と時間がかかるようになった。まず発電事業者は環境影響評価の「方法書」の作成から始めて、その審査を経た後に「準備書」、そして最終的に「環境影響評価書」を作成・審査の後に、ようやく工事の計画を申請することができる(図2)。

図2 発電所の建設に必要な環境影響評価の手続き。出典:経済産業省

 今回の大間風力発電所に関する環境省の指摘は、第2段階の準備書に対するものである。これを受けてJ-POWERは環境省や地元自治体の意見を反映した形で、第3段階の環境影響評価書を作成する必要がある。その際にも再び環境省の審査があり、場合によっては建設計画の変更命令が出る可能性もある。

49件の風力発電所が審査を受ける

 大間風力発電所のほかにも、同じように審査を受けているプロジェクトが数多くある。経済産業省は発電所の建設による環境への影響を審査するために「環境審査顧問会」という審議会を専門家で構成しており、その中に10月から「風力部会」を設置した。

 10月と11月の2か月間に4回の会合を開き、22社の49件にのぼる風力発電所の建設計画について協議している。49件の1件目が大間風力発電所で、J-POWERの風力発電プロジェクトだけで9件も審査の対象に含まれている。

 これから国を挙げて再生可能エネルギーを急拡大しなくてはならない状況にもかかわらず、数多くの発電所が建設開始までに長期間を要するようでは、早期の広がりは見込みにくい。環境への影響を最小限にとどめるための努力は必要だが、そもそも環境影響がゼロの大規模な発電設備は世の中に存在しない。より大局的な観点に立って、審査プロセスを簡素化することが求められる。

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