岐阜県の北部にある奥飛騨温泉郷で、バナナやコーヒーを生産する植物工場が3月中旬から稼働している。温泉熱とLED照明を組み合わせて、室内の温度を一定に保ちながら光合成を促進する仕組みだ。温泉旅館の和室を改造した植物工場では、栽培に必要な電気代が月に1万3000円で済む。
標高800メートルの奥飛騨温泉郷は冬になると雪で覆われる。そんな雪国で温泉熱を利用してバナナを生産しているのが「奥飛騨ファーム」である。従来は屋外のビニールハウスに温泉を引き込んでバナナを栽培していたが、新たに温泉旅館の中に「熱帯植物工場」を造った。
この植物工場は広さ10畳の和室を2部屋つなげて改造したもので、天井には合計48個のLED照明が並んでいる(図1)。植物の光合成を促進するために、太陽光に近い特殊なLED照明を採用した。バナナやアセロラなどのトロピカルフルーツのほかに、ハワイ原産のコーヒーも栽培している。
奥飛騨温泉郷は岐阜県の高山市にある古くからの名湯で、植物工場は温泉旅館の「栃尾荘」の中にある(図2)。栃尾荘は合掌造りの旅館として知られ、現在も13室の部屋があって、源泉かけ流しの露天風呂が楽しめる。ただし近年は観光客が減ってきたことから、空き部屋を植物工場に転換した。
旅館の部屋には温泉熱を利用した暖房機が設置されている。館内を循環する温泉水の熱をモーターで送風する仕組みだ。この温泉暖房機2台を植物工場の空調に利用して、熱帯植物の栽培に必要な20〜25度の室温を年間を通して保つことができる。電力を使うのはLED照明と温泉暖房機の送風モーターだけで、「1カ月の電気代は1万3000円くらいで済む」(奥飛騨温泉ファーム代表取締役の滋野亮太氏)。
植物工場は3月中旬に完成した。1カ月を経過した4月中旬の現時点では、25種類の熱帯植物を栽培中だ。すでにアセロラの実がなり始めていて、夏には商品として出荷できる見通しである。今後さらに品種を増やして50種類くらいの熱帯植物を栽培していく。年間に1500本以上の熱帯植物を生産・販売できる体制を目指している。
奥飛騨ファームでは屋外のビニールハウスでも温泉熱を利用している。一帯は冬になると雪が降り、気温は零下になる。それでもハウスの中は常に30度を維持している。バナナの苗木に沿って設置した配管を65度の温泉水が流れて、空気を暖めて熱帯と同様の状態を作ることができる(図3)。
さらに太陽光発電も利用している。ビニールハウスでは常に換気が必要で、自動通風システムの電力を太陽光発電で供給する。ビニールハウスの脇に設置した1枚の太陽光パネルと蓄電池を組み合わせて、24時間いつでも換気が可能だ。再生可能エネルギーを利用して、日本で最北端のバナナ栽培農園と、日本で初めての熱帯植物工場が温泉街で生まれた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.