面積の8割以上を森林が占める岐阜県には水力とバイオマス資源が豊富にある。過疎に悩む農村では農業用水路に小規模な水力発電機を設置して電力の自給自足が始まった。ダムを利用した小水力発電も相次いで運転を開始する一方、都市部では地域ぐるみのバイオマス発電が広がっていく。
岐阜県の中部に、小水力発電による村おこしで全国の注目を集める農村がある。郡上市(ぐじょうし)の「石徹白(いとしろ)」と呼ぶ古くからの集落だ。標高700メートルの高地にあって、夏の涼しさを生かしたトウモロコシが主な農産物である。冬には大量の雪が降り、厳しい寒さから過去50年間で人口が4分の1以下に減ってしまった。現在は100世帯の270人が暮らしている。
地域の住民が村を活性化するために取り組んだのが小水力発電である。2007年から小規模な発電設備を農業用水路に設置して実験を開始した(図1)。一時は反対の声も上がったが、2014年に発電事業の主体になる「石徹白農業用水農業協同組合」を設立して小水力発電を本格的に推進中だ。
小水力発電は2カ所で実施する。1つは郡上市が建設して2015年6月に運転を開始した「石徹白1号用水発電所」である。農業用水路を利用して63kW(キロワット)の電力を供給することができる。年間の発電量は39万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると、石徹白の全世帯をカバーできる110世帯分に相当する。
もう1つの小水力発電所は地元の協同組合が建設・運営するプロジェクトで、発電能力は103kWを予定している。総事業費は2億4000万円にのぼり、県と市が75%、残り25%を協同組合が負担する。2016年内に運転を開始できるように準備を進めているところだ。
市が運転中の発電所と同様の発電効率を想定すると、年間に60万kWh程度の発電量になる。固定価格買取制度を適用すれば、年間の売電収入は約2000万円を見込める。維持管理費などを除いて出る利益を新たな農業の振興策に役立てる方針だ。豊富な水量を発電に生かしながら、農産物の生産・販売量を増やして地域の魅力を高めていく。過疎に歯止めをかける期待は大きい。
こうして小水力発電で地域を活性化する試みは、岐阜県を横断する木曽川の上流でも始まっている。東部の中津川市では大正時代からの農業用水路を改修して小水力発電に利用するプロジェクトがある(図2)。64メートルの落差の水流から最大126kWの電力を供給する計画で、2015年12月に運転を開始する予定だ。
民間企業2社が発電事業者になって、地元の水路管理組合から農業用水路の使用許可を受けた。小水力発電に欠かせない設備の清掃・点検業務の一部も管理組合に委託する。発電事業による農業用水路の効率改善に加えて、清掃・点検業務による新たな収入が地域のメリットになる。
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