有機薄膜太陽電池の「2つの課題」の改善に成功太陽光

半導体ポリマーを塗布して作る有機薄膜太陽電池は、柔軟かつ軽量で、製造コストも安いなどの利点がある。一方で普及が進んでいるシリコン系太陽電池より変換効率と耐久性の面では劣る。こうした課題の解決に向け、理化学研究所はこのほど新たな半導体ポリマーを開発し、有機薄膜太陽電池の変換効率と耐久性を同時に向上することに成功した。

» 2015年09月28日 09時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発分子機能研究グループの上級研究員 尾坂格氏、特別研究員の斎藤慎彦氏、グループディレクターの瀧宮和男氏らの研究チームは、このほど半導体ポリマーを塗布して作る有機薄膜太陽電池(OPV)(図1)のエネルギー変換効率と耐久性を同時に向上させることに成功したと発表した。

図1 有機薄膜太陽電池の構造 出典:理化学研究所

 有機薄膜太陽電池は半導体ポリマーを基板に塗布することで作成できるため、大面積化が可能となる。そのため低コストで環境負荷が少ないプロセスで作ることができるとともに、現在普及しているシリコン太陽電池にはない軽量で柔軟という特徴もある。しかし、有機薄膜太陽電池は光、熱、酸素、水分などにより劣化することから耐久性の低さが指摘されており、普及に向けてはこれが大きな課題となっている。

 光や酸素、水分に対しては紫外線のカットや素子を封止することで大部分を抑制することができる。しかし太陽光が当たることによる素子の温度上昇は防ぐことができない。そのため熱による劣化抑制には、半導体ポリマーやホール輸送性材料、電子輸送性材料などの材料の性能を抜本的に改良する必要があった。

 研究チームはエネルギーの変換効率の向上を目指して研究を進めてきたが、今回変換効率とともに耐久性を高める新しい半導体ポリマー「PTzNTz」の開発に成功。このPTzNTz素子を塗布した有機薄膜太陽電池と、2014年に研究チームが開発したPTzBT素子塗布の有機薄膜太陽電池を比較したところ、エネルギー変換効率は7%から9%に向上した(図2)。

図2 半導体ポリマー「PTzBT」と「PTzNTz」。PTzBTが赤紫色であるのに対し、PTzNTzは黒色に近い深緑色となっており、PTzNTzの方が光を吸収する波長領域が広いことが分かる 出典:理化学研究所

 また、これらの素子の耐久性を評価するため、85度に加熱して500時間保存したところ、PTzBT素子の場合は試験開始数時間でエネルギー変換効率が初期値の半分程度まで大きく低下し、500時間経過後には初期値の約40%まで低下した。一方、新たに開発したPTzNTz素子は500時間後でも初期値の約90%の変換効率を維持するなど、耐久性が大きく向上した。さらにホール輸送性材料である酸化モリブデン(MoOx)を酸化タングステン(WOx)に変更したPTzNTz素子では、500時間経過後でもエネルギー変換効率はほとんど低下しなかったとしている。

 これらの実験結果から、PTzNTz素子を利用した場合の変換効率の時間変化を推測すると、1000時間経過後でも変換効率は初期値の90%以上を保持することが予想されるという(図3)。これは現在普及している太陽電池に要求される耐熱性を満たしており、今回開発した有機薄膜太陽電池は実用レベルに近い耐久性を有する可能性があるとしている。

図3 実験における有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率の時間変化。光活性層に用いる半導体ポリマーをPTzBTからPTzNTzに変更することで耐久性が向上。さらにホール輸送層を酸化モリブデン(MoOx)から酸化タングステン(WOx)に変更することで、さらに耐久性が向上した 出典:理化学研究所

 現在のところ新しい半導体ポリマーおよび輸送性材料を改良したことで耐久性が向上した理由は分かっていないが、理化学研究所は「今後詳しく調査を進め、次の材料開発につなげることが重要な課題となる。今回の成果により有機薄膜太陽電池の実用化に向けた研究開発がますます活発になることを期待する」としている。

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