実証実験の場所には久慈市の「玉の脇漁港」にある防波堤を選んだ(図6)。この漁港は湾の中にあって、太平洋に対面する海岸と比べると波は大きくない。最大の波を受けても発電装置が壊れないように設計する必要があるためだ。地元の久慈市や漁業組合の協力が得られたことも選定理由の1つである。
実証運転を開始する9月は年間でも波が小さい時期にあたる。運転当初は発電装置を調整しながら、波が大きくなる冬の1月に装置の制御方法などを検証する。3月まで検証を続けた後も、波力発電のコンソーシアムを作って2年程度の実証運転を継続する予定だ。コンソーシアムには東京大学のほかに、発電装置を共同で開発した日立造船、川崎重工業、東洋電機製造などが加わる見込みである。
実証プロジェクトのリーダーを務める東京大学の林昌奎(リム・チャンキュ)教授によると、実用化に向けた最大の課題は発電装置のコストダウンにある。現在の装置は製造コストと設置工事費を合わせると1億円程度かかる(図7)。年間の発電量が8万7600kWhと想定した場合、20年間の運転で発電コストは57円/kWhになる。さらにメンテナンスなどの運転維持費が加わる。
現在の固定価格買取制度では小型風力(発電能力20kW未満)の買取価格が最も高くて55円/kWhである。それと同等の水準になるように、運転維持費を含めて発電コストを50円/kWh程度まで引き下げることが当面の目標だ。「そのためには発電装置の軽量化などを通じて、1基あたり2000〜2500万円くらいのコストで作る必要がある」(林教授)。
全国には漁港が3000カ所近くある。久慈市の実証運転を成功させた次のステップとして、さらに多くの漁港へ波力発電装置を展開していく計画だ。1基の発電能力は50kW程度に抑えながら、1カ所に複数台の装置を並列に設置する方法でコストダウンと発電量の増加を図る。
将来は波力で油圧シリンダーを動かしながら、電力を作らずに油圧ポンプで水を高い場所まで組み上げて、揚水式の水力発電を実施する構想もある。この方法を実現できると、波力が安定しない状態でも揚水発電で必要な時に電力を供給することが可能になる。
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