電力の「ネガワット取引」で国の方針が決まる、取引単位や調整金の計算方法など動き出す電力システム改革(64)(2/2 ページ)

» 2016年07月15日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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最大需要の6%をネガワット取引で供給

 ネガワット取引では節電した電力量を算定するために、あらかじめ「ベースライン」を設定する必要がある。需要家が通常の状態で消費する電力の水準をベースラインに設定して、そこから節電した分の電力量をネガワット取引の対象にする(図4)。

図4 節電電力量の基準になる「ベースライン」。出典:資源エネルギー庁

 政府はベースラインの設定方法として、標準案と代替案を規定している。節電を要請する時間が長い場合と短い場合に分けて、長い場合には直近5日間のうち需要の多い4日間の平均値をとる「High 4 of 5」を標準案に定めた(図5)。さらに需要家のグループ単位でもベースラインを設定できるように修正を加える方針だ。

図5 ベースラインの設定方法(画像をクリックすると全体を表示)。DR:デマンドレスポンス。出典:資源エネルギー庁

 ベースラインをもとに節電量が決まり、それに応じて需要家には報酬が支払われる。そのほかに事業者間でも金銭のやり取りが発生する。取引を仲介する「ネガワット事業者」は需要家に報酬を支払うだけではなくて、その需要家が契約している小売電気事業者にも「ネガワット調整金」を支払う必要がある(図6)。需要家が節電することで小売電気事業者の収入が減るために、その一部を調整金で補てんする仕組みだ。

図6 ネガワット取引に伴う金と電気の流れ。出典:資源エネルギー庁

 一方でネガワット事業者は仲介した電力を供給した別の小売電気事業者から料金を徴収できる。ただしネガワット取引で供給する予定の電力量が足りなかった場合には、一般送配電事業者(電力会社の送配電部門)から電力を補充(インバランス供給)してもらう必要がある。インバランス供給を受けると当然ながら料金が発生する。

 ネガワット事業者にとっては需要家の節電量を適切に評価できることが、取引を円滑に実施するうえで極めて重要になる。そのためには小売電気事業者と同様に、需要家の過去の電力使用量や契約電力の大きさを把握する必要がある(図7)。政府は新たに定める省令の順守を条件に、ネガワット事業者にも需要家に関する情報提供を認める方針だ。

図7 「ネガワット事業者」に対する情報提供。出典:資源エネルギー庁

 ネガワット事業者が小売電気事業者に対して支払う調整金の計算方法についても、全体方針の中で4通りの案が決まっている。毎月の使用量に応じた電力量料金の単価か、卸電力取引所のスポット市場の平均価格をもとに計算する方法だ(図8)。需要家に節電を要請する時の市場の状況に合わせて、4通りの計算方法の中から事業者間で交渉して価格を決定する。

図8 「ネガワット調整金」の計算方法。出典:資源エネルギー庁

 政府は電力の需給バランスを調整する有効な手段してネガワット取引の拡大を目指す。すでに米国ではネガワット取引を通じて最大需要の6%を供給できる状態になっている。2030年度までに米国と同等の6%を目標に掲げてネガワット取引の活用を推進していく。

第65回:「ガス小売事業者の登録申請が始まる、関西電力が早くも名乗り」

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