農山村に水力発電を展開、太陽光と2本柱で自給率70%を目指すエネルギー列島2016年版(15)山梨(2/3 ページ)

» 2016年08月02日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

少ない水量で発電量を増やす工夫

 もう一方の浅尾発電所に導入した水車発電機は、幅の狭い農業用水路にも設置できる「縦軸スクリュー水車」である。用水路の段差がある場所を利用して、水車に垂直に水を取り込む構造になっている(図5)。この方法だと用水路の改造が少なくて済み、簡単な工事で小水力発電設備を導入できるメリットがある。

図5 「浅尾発電所」の水車発電機。出典:山梨県企業局

 水流の落差は2メートルしかなく、水量は最大で0.95立方メートルにとどまる。少ない水量と低い落差でも発電できるように、水車と発電機のあいだには回転数を増やすための増速機が付いている(図6)。小さな水力でも12kWの電力を作り出す仕掛けだ。年間の発電量は4万5000kWhになって、13世帯分の電力を供給できる。

図6 「浅尾発電所」の設備構成。出典:山梨県企業局

 こうした県の取り組みと並行して、民間企業による小水力発電の実証プロジェクトも進んでいる。関電工が中心になって2014年12月から「葛野川(かずのがわ)マイクロ水力発電所」を運転中だ(図7)。

図7 「葛野川マイクロ水力発電所」の小水力発電設備。出典:関電工

 この小水力発電所は「葛野川ダム」の直下にある。ダムの堤体の上部から82メートル下の水車発電機まで、高い落差で水を流し込んで発電する(図8)。発電に利用できる水量は農業用水路よりもはるかに少なくて、毎秒0.25立方メートルである。それでも82メートルの落差を生かして発電能力は160kWになり、年間の発電量は73万kWhに達する。一般家庭の使用量に換算して200世帯分である。

図8 小水力発電設備の導入イメージ(上)、「葛野川ダム」の全景(下)。出典:関電工、東京電力

 葛野川ダムは東京電力が運転する揚水式の「葛野川水力発電所」(発電能力120万kW)で利用する上下2つのうちの下部ダムで、貯水量は1150万立方メートルにのぼる。夜間の余剰電力を使って大量の水を上部ダムに引き上げて昼間に発電する一方、ダムの下流の自然環境を守るために常に少量の水を流し続けている。この環境維持用の水流を小水力発電に利用する。

 水車発電機には国内の水力発電で最も多く使われている「横軸フランシス水車」を採用した。水車の素材には一般的なステンレスの代わりにアルミ青銅合金を使って、耐久性を維持しながらコストの低減を図る狙いだ。小水力発電に適した高効率で低コストの水車を開発・運用することがプロジェクトの目的の1つになっている。

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