宇宙の太陽光発電へさらに前進、レーザーによる電力伝送実験で好結果自然エネルギー(1/2 ページ)

未来の再生可能エネルギーとして期待がかかる「宇宙太陽光発電システム」の実用化に向けて、地上の実証実験が進んでいる。宇宙航空分野の研究開発を担うJAXAはレーザーを使った無線の電力伝送に取り組み、高精度のシステムを実証した。宇宙からの伝送に必要なミクロな精度で送電する。

» 2016年10月14日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 「宇宙太陽光発電システム」(SPSS:Space Solar Power Systems)は宇宙に浮かぶ太陽光発電所である。人工衛星に搭載した装置から太陽光エネルギーを地上に伝送して、電力に変換して利用できる発電方法だ(図1)。地上の太陽光発電のように天候の影響を受けにくく、必要に応じて地球上のあらゆる場所まで電力を届けることが可能になる。

図1 「宇宙太陽光発電システム」の仕組み。出典:JAXA

 未来の再生可能エネルギーとして大きな期待がかかるが、課題も多く残っている。その1つが宇宙から地上まで太陽光エネルギーを伝送する技術である。現在のところ電波の中で波長が最も短いマイクロ波や、さらに波長の短いレーザーを使って伝送する方法が有力だ(図2)。JAXA(宇宙航空研究開発機構)は小規模なシステムを構築しやすいレーザーを利用した伝送方法の技術開発に取り組んでいる。

図2 人工衛星からレーザーで太陽光エネルギーを伝送。出典:JAXA

 レーザーを使って太陽光エネルギーを伝送するうえで、最大の課題は宇宙から地上の受光装置まで位置をずらさずに正確に届けることにある。ところが大気中には乱れがあるため、その影響で地上に届くまでにレーザービームの方向がずれてしまう。受光装置の範囲からはずれてしまうと、宇宙から送った太陽光エネルギーを地上で受け取ることができなくなる。

 求められる精度は高度3万6000km(キロメートル)の位置から、地上の3.6m(メートル)以内に到達させることだ。これは4km離れた場所から富士山の頂上に置いたわずか0.4mm(ミリメートル)の針穴を通すことに匹敵する(図3)。角度で表すと100万分の5.7度(0.1μRAD=マイクロラジアン)である。

図3 宇宙からの伝送に求められる精度。出典:JAXA

 JAXAは10倍の1μRADを目指して、2016年5月中旬から約1カ月かけて電力伝送の実証実験を地上で繰り返した。実験の場所は茨城県にある日立製作所の事業所の構内で、高さが213メートルあるエレベータの研究タワーを利用した。タワーの屋上に送光ユニット、地上に受光ユニットを設置して、その間を上下方向にレーザーを照射する(図4)。

図4 レーザーによる電力伝送実験システム(画像をクリックすると拡大)。出典:JAXA
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