今回の成果で最も重要なのは金電極の表面に吸着させた分子触媒だ(図3)。なぜ分子触媒が重要なのだろうか。
分子触媒を用いず、裸の金電極だけを用いた場合、炭素を1つ含む一酸化炭素だけが得られる。炭素を2つ含むエチレングリコールは生成しない。
金電極の代わりに銅電極を用いると炭素を2個含んだ分子が得られるものの、特定の生成物を狙うことができない。副生成物が多い、混合物が得られるだけだ。
分子触媒を用いることで、一酸化炭素は発生せず、エチレングリコールが得られた。
2011年、米イリノイ大学の学生だったBrian Rosen氏が属していた研究チームは、イオン液体として知られていたイミダゾリウム塩(EMIM-BF4)を用いると、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を得る反応のエネルギー障壁(過電圧)が大幅に下がることを発見した。イミダゾリウム塩が効率のよい触媒となる可能性を示した実験だ。この後、イミダゾリウム塩を用いた複数の研究が進み始めた。
東芝はイミダゾリウム塩単独ではなく、より使いやすい構造を狙った。炭化水素のヒモ(アルキル鎖)を用いて、イミダゾール基とイオウ原子とを結び付けたイミダゾリウム誘導体を合成。金電極の表面に吸着させて、外部から電流を供給する研究を開始、2015年9月に最初の成果を公開した。供給した電流のうち87%(ファラデー効率)を利用できる今回の分子触媒の開発だ*2)。
この時点で東芝の研究者が発表した論文には、反応の詳細についてさまざまな可能性を検討した結果が記されている。例えば、二酸化炭素を還元してエチレングリコールを生成している肝心の場所はどこかという問題だ。
金電極単体では一酸化炭素しか生成しないこと、アルキル鎖のヒモの長さが短いほど回路を流れる電流が多くなることなどから、イミダゾリウム塩誘導体が反応の場であること、さらに2つの窒素原子にはさまれた炭素原子が核心だと推測している。
図3の構造式で示すと、N+とNにはさまれた炭素である。この炭素には水素原子が1つ結合しているものの、構造式の表記法から直接には描かれていない。
*2) Jun Tamura, Akihiko Ono, Yoshitsune Sugano, Chingchun Huang, Hideyuki Nishizawa and Satoshi Mikoshiba (2015) “Electrochemical reduction of CO2 to ethylene glycol on imidazolium ion-terminated self-assembly monolayer-modified Au electrodes in an aqueous solution” Phys. Chem. Chem. Phys. doi:10.1039/C5CP03028E
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