風力発電など、再生可能エネルギーに由来する発電所をこれ以上増やすことが難しいという議論がある。系統が不安定化したり、火力発電所の増設が必要になったりするという理由だ。このような主張は正しいのだろうか。風力だけで消費電力の100%以上をまかなったデンマークの事例を紹介する。
デンマークが発電の記録を打ち立てた。2016年12月1日、国内の全消費電力を超える電力を風力発電から得た*1)。
現地時間2時30分から18時30分までの発電比率の推移を図1に示す。風力発電が消費電力に占める割合を縦軸にパーセント表示したもの。2時30分ごろから5時50分ごろまで100%を超えている。最大値は111%だ。
*1) デンマークEnerginet.dkは、国営の送電システムオペレータ。ガス網も管理する。電力・ガスに関するリアルタイム情報を1分ごとに「Power right now」というWebページ上で公開しており、今回はこのデータを分析した。
今回のデンマークの記録から分かることが幾つかある。再生可能エネルギーや発電にまつわる幾つかの「神話」、その神話に誤りがあることだ。図1から分かる誤りは2つある。
神話1:風力発電の比率が高まると、系統が不安定になり制御できなくなる
神話2:変動する風力発電は、主要な電力源として役に立たない
風力発電の比率が100%を超えたことはもちろん、1日を通じて70%以上の比率を維持しながら問題は生じなかった。12月1日に限った話ではない。その後も100%を超える日が続き、風力の比率が高い水準で推移している。
風力発電などの再生可能エネルギーを用いた発電所は、出力が大きく変動する。変動を吸収するためには、これとほぼ同程度の出力の火力発電を用意しなければならないという主張がある。この主張は正しいのだろうか。
神話3:風力発電を増強すると、それに合わせて火力発電も増やさなければならない
デンマーク国内には風力発電所の他に、大型のガス火力発電所と小型のガスコージェネレーション発電所、太陽光発電所が複数ある。それぞれのガス火力発電所の出力変化はどうだったのだろうか*2)。図2を見てほしい。
*2) デンマークでは太陽光発電の導入量は少なく、12月1日は終日雨がちだったため、ここでは触れていない。
コージェネレーション発電所は電力と同時に熱を生み出して都市に熱を供給する。図2ではほとんど変化していない*3)。
大型のガス火力の出力には変動が見られるものの、風力の出力変化とは直接関係していない。
*3) 図2では示されていないものの、デンマークのコージェネレーション発電所はEnerginet.dkの管理下にあり、必要に応じて出力を増減できる。12月1日以外ではそのような運用が確認できた。
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