オランダのライデン大学で教授を務めるJo Hermans氏は、ポスト化石燃料時代において、輸送機関に用いる最適な燃料を検討した。その結果、飛行機については液体水素が適すると結論づけた。太陽光や自動車についても検討結果を公開している。
飛行機には重量制限がある。このため、長期的には液体水素が現在のジェット燃料(ケロシン)を代替する可能性がある(図1)。このように主張するのはオランダのライデン大学ホイヘンス研究所で教授を務めるJo Hermans氏だ*1)。
同氏の問題意識はこうだ。国際エネルギー機関(IEA)の統計によれば、2014年時点で世界の最終エネルギー消費に占める輸送部門の比率は27.9%と高い。しかし、輸送部門では再生可能エネルギーの利用が、家庭部門や産業部門と比較して遅れている。
液体燃料の利便性を享受しつつ、二酸化炭素を実質的に排出しない、ポスト化石燃料時台を担うエネルギー源は何か。自転車やバス、船舶、飛行機などさまざまな輸送機関について検討を重ねた。飛行機に限っては液体水素が適切だと結論付けた形である。
*1) ライデン大学はJo Hermans氏がMRS Energy Sustainability誌に投稿した論文について、2017年2月22日に内容を発表している。Jo Hermans,"The challenge of energy-efficient transportation" doi:10.1557/mre.2017.2
飛行機に限って液体水素を推す理由は3つある。
第一に飛行機の燃料供給は専門家だけが担う。従って、液体水素の安全性について現在のジェット燃料と同じ水準を維持できるとした。
第二に液体水素が軽量なこと*2)。密度は水の14分の1しかなく、同じ重量のガソリンと比較して約4倍のエネルギーを取り出すことが可能だ(図2)。つまり重量エネルギー密度が高い。
*2) Hermans氏は燃料の重量がかさむため、現在の飛行機のエネルギー効率が高くならないことを指摘している。例えばボーイング747-400が燃料を搭載していない時の重量は180トン、最大に搭載したときの重量は2倍以上の370トンとなる。従って長距離飛行では乗客や荷物を運ぶというより、ジェット燃料自体を運んでいる形になる。
第三に環境条件。長距離を飛行する飛行機は、外気温が−55度程度の高度を保つ(高度約1万メートル)。このため、液体水素を−253度の低温に維持することが地表よりもたやすくなる。さらに燃料を使い切るまでの飛行時間も短い*3)。
課題もある。Hermans氏によれば最大の課題は燃料コストだという。発表資料の中で同氏は「ジェット燃料は不合理ともいえるほど燃料コストが低いため、不必要な運行が生じるほどだ。政治的に可能であれば税金のメカニズムを考慮することも必要だ」と語っている。*4)
*3) 低温を維持しなければならない時間がカギになるという主張である。東京・ロンドン間、東京・ニューヨーク間の距離は約1万kmであり、飛行時間は12時間程度。つまり断熱や冷却が必要な時間は12時間に限られる。
*4) ある発電装置やエネルギー源を大規模に利用した場合に、コストが急速に低減することがあらかじめ予測できる場合がある。例えば太陽光発電システムだ。1993年時点で家庭用システムの価格は1kW当たり370万円。これが、2017年時点では同20万円程度まで下がっている。産業用では既に火力発電を下回る水準に達した。太陽電池モジュールについては、容量当たりの単価と累計出荷容量を両対数グラフで表現すると、直線上に載るという性質があり、将来を予測しやすい。このような性質があるエネルギー源に対しては、固定価格買取制度(FIT)のように、人為的に需要を作り出す手法が役立つ。
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