東急がガス販売に参入、「鉄道に続く第2の生活インフラ事業に」電力供給サービス

新電力の東急パワーサプライがガス販売への参入を発表。中部電力と大阪ガスが首都圏でのガス販売を目的に設立したCDエナジーダイレクトと提携し、2018年10月から供給を開始する。

» 2018年06月01日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 新電力大手の東急パワーサプライは2018年5月31日、CDエナジーダイレクトと首都圏における都市ガス販売で業務提携すると発表した。CDエナジーダイレクトは中部電力と大阪ガスが首都圏でのガス販売を目的に設立した折半出資会社。東急パワーサプライは同社の取次事業者として、既に販売している「東急でんき」ブランドに、ガスを加えた「東急でんき&ガス」として展開を行う。

東急パワーサプライ 代表取締役社長の村井健二氏とCDエナジーダイレクト 代表取締役社長の小津慎治氏

 2016年4月に始まった電力の小売全面自由化を契機に、電力小売市場に参入した東急パワーサプライ。東急急行電鉄のグループ会社として、鉄道沿線の顧客との接点を強みに、順調に加入者を増やしてきた。2018年5月末時点での加入者数は約15万件と、異業種参入の新電力の中では、大きな存在感を示している。

 同社はガス小売が自由化されて以降、ガス販売への参入検討を続けてきた。しかし、新電力にとってガス販売を手掛けるハードルは、電力よりはるかに高い。ガスの調達だけでなく、法律で定められた保安業務を実施する組織体制の整備も必要になる。東急パワーサプライの村井社長は「ガスは高い専門性が求められる。同じ自由化といっても、電力とはまったくの別物」と話す。

 しかし、東急パワーサプライが東急線沿線に住む、まだ電力会社の契約変更を行っていない住民に対して独自のアンケート調査を行ったところ、50%超える家庭がガス自由化による新しい選択肢の登場を、切り替えのタイミングとして待っているという結果が出た。これがガス小売への参入を大きく後押ししたという。

 その実現に向け、東急パワーサプライが選択したのが、CDエナジーダイレクトとの提携だ。村井社長は「当初から電力と同じようにガスを自社で販売することは、検討していなかった。提携先を模索する中では、さまざまな事業者の方と話し合いを行ってきた。われわれのような新規参入事業者がガス販売を行う上での最大のテーマは、お客さまへの安心安全の確保、そして各家庭におけるガス機器周辺のきめ細かいサポート体制の構築にある。この部分に関して、CDエナジーダイレクト、その前段で大阪ガスとのかなり深い検討を行い、今回の提携に至った」と説明した。

 東急パワーサプライではガス機器の保安作業や、各種サービスを提供する専門部隊として、東急でんき&ガスサポートを立ち上げる。「ここには東急グループの持つ沿線の方々へのサービス提供のノウハウと、CDエナジーダイレクトのガス保安業務に関するノウハウを注入していく」(村井社長)

 CDエナジーダイレクトの視点からみると、設立以降、今回が初の大きな提携の発表となる。首都圏で300万件の顧客獲得目標を掲げる同社は、提携によって販売チャネルを強化したい考え。東急パワーサプライのサービスレベル、豊富な顧客接点と販売チャネル、ブランド力やマーケティング力、東急でんきの実績などに魅力を感じたという。CDエナジーダイレクトの小津社長は「ガスは電気と違って卸取引所がなく、新規参入のハードルは高い。一方、われわれはガスの調達も行える。そうした新規参入事業者の方と提携し、ガスの卸売りを行っていくことも経営戦略の1つになる」と話す。

東急パワーサプライのガス販売の事業モデル

長期的にはガス30万件の獲得を目指す

 東急でんき&ガスは、2018年7月から受け付けを開始し、供給は10月から。料金の詳細は同年6月下旬をめどに公表する予定だが、基本料金、従量料金ともに東京ガスの従来プランより安価に設定するとしている。床暖房やガス温水器「エコジョーズ」など、ガス機器に応じた料金プランも用意する。なお、電気の提供エリアは東京電力管内、東京ガスの都市ガス供給エリア(茨城県、栃木県、群馬県、千葉県の一部エリアを除く)。

 東急パワーサプライが強みの1つとするのが、クレジットカード、不動産、生活サービスなどを手がけるグループ各社やケーブルテレビ各社と連携した東急沿線に対する強固な販売チャネルだ。電気やガスに加え、他のサービスとの連携によるお得感も打ち出しやすい。ガス販売についても、これらの企業と連携していく。

 ガス販売での顧客獲得目標については、2018年度内に6万件を目指す。長期的には、東急沿線のコアエリア150万世帯の約20%に相当する、30万件の獲得を目指すという。村井社長は「電気とガスというのは、あらゆる家庭に必要なもの。東急グループの鉄道に次ぐ第2の生活インフラ事業として、その提供をわれわれが担っていきたい」と抱負を語った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.