富山大学の研究グループは、合成ガスから石油代替燃料などを合成する触媒で、レアメタルであるコバルトの使用量を大幅に削減する技術を開発した。
富山大学の研究グループは、Fischer-Tropsch(FT)合成の定説を覆し、コバルトの使用量を大幅に削減できるカプセル型FT合成触媒を開発したと発表した。
FT合成は合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)から軽油など石油代替燃料および化学品を合成する触媒反応。合成ガスは天然ガス(シェールガス、メタンハイドレートを含む)、バイオマス、石炭、可燃性ゴミから簡単に製造できるため、FT合成反応は産業上インパクトの大きな触媒反応の1つといわれている。しかしながら、1日当たり3万バーレルの合成燃料を製造できる反応塔一基当たりのコバルト触媒使用量は500トンにも達し、さらに触媒は1〜2年で交換する必要がある。そのため軽油などを生産する巨大FT合成プラントでは、電気自動車の登場に伴い、価格が2年前の3倍程度になっているコバルトの使用量の大幅な削減が求められている。
既存のFT触媒では、径が20〜30nm(ナノメートル)程度のコバルトナノ粒子から軽油などが合成されるため、コバルトの消費量が増大し、FT合成触媒およびFT合成プラントのコスト増につながっている。
今回、同研究グループは、従来のFT合成触媒の基本定説を覆し、シリカ層に覆われたコバルト系カプセル触媒において、大きな粒子の10分の1程度の小さなコバルトナノ粒子で軽油などを合成できることを新たに発見した。
シリカ層に覆われたコバルト系カプセル触媒において、小さなコバルトナノ粒子は分子の長い軽油とジェット燃料を合成し、大きなコバルトナノ粒子では分子の短いLPG、軽質オレフィンが合成される。原因として、カプセル触媒構造のような閉じ込められた空間内部では、小さなコバルトナノ粒子表面のカルベン濃度が高く、一度脱離した炭化水素が再び再吸着されやすく、炭素連鎖成長が驚異的に加速し、分子の長い軽油とジェット燃料になった。一方、シリカに覆われた大きなコバルトナノ粒子表面では表面コバルト原子の配位不飽和度が低いため、金属原子と一酸化炭素の結合が弱く、カルベン濃度が低くなったことが、軽質炭化水素(LPG、軽質オレフィンなど)を多く生成する原因であると判明した。
従来の担持型FT商業触媒ではコバルト含有量が重量比で30〜40%だが、今回の発見により5〜10%以下まで削減することが可能となる。今後、新規FT合成触媒として商業プラントに投入し、さらに、FT合成と類似している二酸化炭素(CO2)と水素からの液体燃料の合成への応用を目指す。
なお、今回の研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」の研究課題「超空間制御触媒による不活性低級アルカンの自在転換」の一環として行われた。
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