「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。第2回では気候変動対策に関連するパリ協定前後の世界の動向とともに、2014年9月に設立された代表的な気候変動イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」の概要を説明する。
第1回「世界で広がるESG投資、企業も気候変動対策を無視できない時代へ」
本稿では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取り得るべきか、どのような対外発信を行い得るのかを考えていきたい。
前回は、企業において気候変動に向けた取り組みが活発化している現状について述べた。今回は、こうした動きが世界で活発化している背景をさらに探るため、パリ協定前後の動きを概説する。その上でパリ協定に先立ち、2014年9月に設立された代表的な気候変動イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」の概要を説明する。
日本においては、CSRレポートの後半部分などに「地球温暖化対策」などのセクションを設け、自社のGHG(温室効果ガス)排出量の変化などを載せるのが一般的な企業における気候変動対策のアピール方法であった。
各社のCSR部や環境対策室などが中心となり、「温対法(正式名:地球温暖化対策の推進に関する法律)」や「省エネ法(正式名:エネルギーの使用の合理化に関する法律)」、あるいは東京都の総量削減義務などの最低基準をクリアすること(マイナス評価されない)ことを中心に、守りの姿勢で温暖化対策を進めようとする企業が多かったともいえる。GHG排出削減目標を設定しても、それを政府や国連が設定した目標と関連付けることはまれで、GHG排出量が前年度をわずかにでも下回れば、それで良しとしている企業も散見されたものだ。
ところが、数年前から様相が大きく変化した。2015年の9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」および同年12月に行われた「第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」で成立した「パリ協定」、この2つをきっかけとして、自社の取り組みを積極的にアピール材料としていこうとする機運が盛り上がりつつある。もはや、CDPで高いスコアをマークすること、SBTやRE100に向けた取り組み方針を検討することは、どの企業にとっても対岸の火事では済まされなくなってきている。
SDGsの17の“Goals”にはそれぞれ“Target”と“Indicator”により具体的な数値と評価指標が示されている。「弊社は気候変動対策としてこのようなことをやっています」と省エネの事例を並べるだけでは不十分で、国際的に認められた指標を用い、客観的な数値で自社の取り組みを説明することが必要である。そのためには、国内外の企業がどのような動きをしているのか調査することはもちろんだが、そもそもなぜこうした動きが世界で活発化しているのか、その背景についての知識も必要である。
なぜ、気候変動対策のプレイヤーが企業主体になりつつあるのか? なぜ、世界の有名企業がRE100に熱心に取り組もうとしているのか? パリ協定に至る歴史、パリ協定後の国際的な動きを把握することによって、個々の企業がどう対処すべきなのかが見えてくる。以降で、パリ協定前後の動きを概観してみよう。
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