世界で広がるESG投資、企業も気候変動対策を無視できない時代へ「ポストパリ協定時代」における企業の気候変動対策(1)(1/3 ページ)

気候変動対策への取り組みが、企業価値にも影響を与える時代になりつつある現在。本連載では「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介する。

» 2018年10月17日 07時00分 公開

気候変動の何が恐ろしいのか

 2018年の夏は全国的に酷暑となり、熊谷市では観測史上最高となる41.1℃を記録した。気象庁のデータによれば、東京の気温は100年前と比較して約3℃上昇したという※1ヒートアイランド現象による効果が大きいと思われるが、やはり地球温暖化ガスを原因とするグローバルな気候変動の影響は無視できないだろう。

※1 気象庁「ヒートアイランド監視報告2017」

グラフ左=日本の年平均気温偏差 出典:気象庁「日本の年平均気温の偏差の経年変化(1898〜2017年)」(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html)/グラフ右=世界の年平均気温の偏差 出典:気象庁「世界の年平均気温の偏差の経年変化(1891〜2017年)」(http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html)

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、「二酸化炭素の累積総排出量とそれに対する世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある。気候システムの温暖化には疑う余地はない」と述べられている※2。ちなみに、気象庁によれば、この100年で日本では2℃、世界全体でも約1℃、平均気温が上昇している。先のIPCC報告書では「産業革命前からの気温上昇が2℃を超えるとリスクが全体的な制御を超越してしまう」としている。

※2 国立環境研究所 地球環境センター「IPCC第5次評価報告書のポイントを読む」(http://www.cger.nies.go.jp/publications/pamphlet/ar5_201501.pdf)

 今夏では、熱中症により小学1年生の男の子が死亡する、という痛ましい事故も起きた。愛知県豊田市のこの児童は、7月17日午前10時頃、校外学習の一環で学校から1キロほど離れた公園へ出掛け、30分ほど昆虫採集を行った。11時半に学校へ戻り、担任と話していたところ、唇が青ざめて意識を失ってしまったとのこと。その後、病院へと搬送され、熱射病による死亡が確認された。この事故の報道を受け、この校外学習を行った学校・教師には非難の声が上がった。

 人間は、特に大人であれば、今まで積み上げてきた知識と経験により自分なりの「常識」を構築し、それを基準に行動するものだ。つい20年ほど前まで、7月の中旬に30℃を超える真夏日が発生することはまれであったことを鑑みると、もしかしたら、この教師は、自らの子ども時代の経験から、“夏の昼に2時間程度屋外にいても生命に危険はない”という、強固な「常識」を持っていたのかもしれない。しかしこの日、同市の11時頃の気温は33.4℃を記録しており、高温注意情報が出ていたのである。急激な気候変動は、現在の30代、40代が子どものときに体験していた常識と、現実の暑さとの間に、認識の乖離(かいり)を生じさせた可能性がある。

 同様のことはさまざまな場面で起こりつつある。日本では主食であるコメを食べるため、稲(イネ)が寒冷地に適応できるよう、長い時間をかけて品種改良を行ってきた。稲は本来、亜熱帯地方の作物であり、稲作が日本に伝わった時点では、東北地方など気温の低い地域では稲を育てることができなかった。その後、祖先の血のにじむような努力によって品種改良が進み、今では日本を代表するおいしいコメ品種のほとんどが東北や北海道といった冷涼な地域でも育てられるようになった。

 ところが、今後は温暖化の影響により、全国的に高温によるコメ品質の低下リスクが増すといわれており、稲の高温耐性品種への転換など適応策が検討されている※3。今まで稲が寒さに耐えられるよう懸命に品種改良を続けてきたのに、これからは「高温に強い」稲の品種を育てるということだ。長年にわたって日本の祖先が行ってきたことと逆のことをせざるを得なくなってきているのだ。

※3 農研機構「ニュース農業と環境 No.110」(https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/files/no110_4.pdf)

 日本の鉄道のレールは、60℃以上の高温にさらされ続けると、熱の影響により曲がってしまう可能性がある。2018年7月14日、JR西日本片町線四条畷(しじょうなわて)駅では、午後3時ごろに線路の温度が59℃を記録したため、安全運行のため一部運行を停止した(点検の結果、線路のひずみは発見されず夕方には運行を再開)。さまざまな気象条件を想定しているはずの鉄道でさえ、予想外の高温のため、安全性に支障が出てしまったということだろう。

 気候変動の影響に関しては、海面上昇や洪水などの災害が取り沙汰されることが多い。しかし、気候変動によって、私たちが今まで用いてきたインフラ、風土や文化までが、今までとは大きく変わってしまうことの重要性も忘れてはならない。「夏、子どもは外で元気に遊ぶもの」という常識が通用しなくなってしまうのは、その一例にすぎない。これが気候変動の最も恐ろしいところだ。

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