世界で広がるESG投資、企業も気候変動対策を無視できない時代へ「ポストパリ協定時代」における企業の気候変動対策(1)(3/3 ページ)

» 2018年10月17日 07時00分 公開
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急拡大を続けるESG投資

 さて、SDGsに関連して、世界のESG投資額がこの数年の間に急速な勢いで増え続けている。ESGとは、環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)の頭文字を取ったものだ。これらに配慮している企業を重視・選別して行う投資をESG投資と呼ぶ。

 世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、2012年に1100兆円強だった世界のESG投資額が、2016年の調査で2500兆円を突破した※4。4年で倍以上になったということだ。2500兆円という金額は、世界の名目GDP総額(約8000兆円)の3割以上、米国の名目GDP(約2000兆円)を上回り、日本のGDP(約500兆円)の5倍にあたる。これほどの巨額が地球の持続可能性と結び付いて投資活動がなされているのである。

※4 「2016 Global Sustainable Investment Review」(http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2017/03/GSIR_Review2016.F.pdf)

 日本でも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2017年よりESG指数(FTSE Blossom Japan IndexおよびMSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数 MSCI日本株女性活躍指数)を選定し、連動した株運用を1兆円規模で開始した※5。また、2018年9月から同業種内で炭素効率性が高い企業、温室効果ガス排出に関する情報開示を行っている企業の投資ウエイト(比重)を高めた指数である「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数(対国内株)」「S&&Pグローバル大中型株カーボンエフィシェント指数(対外国株)」を採用すると発表した※6

※5 http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/esg_selection.pdf

※6 https://www.gpif.go.jp/investment/esg/ 記事「グローバル環境株式指数を選定しました」

 GPIFは2018年度第一四半期で158兆5800億円の資産を運用しており、年金の運用機関としては世界一の投資規模を持つ。GPIFの見解としては、SDGsに賛同する企業が17の項目のうち自社にふさわしいものを事業活動として取り込むことで、企業と社会の「共通価値の創造」が生まれ、その取り組みによって企業価値が持続的に向上すれば、GPIFにとっては長期的な投資リターンの拡大につながると考えており、中長期的に投資の効果を確認しながら、将来的には他のESG指数の活用やアクティブ運用などを含めてESG投資を拡大していくとのことである。

 今後は、こうした大きな資産を運用する機関投資家以外にも、一般株主、消費者、サプライヤーなど、さまざまなステークホルダーが企業の気候変動対策により一層注視することが予想される。「この企業は気候変動対策にどれだけ真摯に取り組んでいるのか?」「低炭素時代になっても順調に成長していける企業なのか?」といった質問に対し、客観的な回答を用意しておくことが必要になる。そうした際に指標となるのが、SBT(Science-based Targets)、CDP、RE100といった国際的に通用するアクションや指標である。

 もちろん、企業は限られた資源を運用するなかでそれを達成しなければならない。すなわち、理想論に偏らず経済合理性に見合った形で気候変動対策を進めていかなければならない。そのためには、まず世界の気候変動対策の趨勢(すうせい)を見極めた上で中・長期的な温室効果ガス削減計画を策定し、その上でさまざまな指標・アクションに対し一つ一つ打ち手を吟味(ぎんみ)していかなければならない。その上で、自社の方向性に見合った形で排出削減・再エネ導入などのアクションを行う。忘れてならないのは、こうした取り組みを自社のステークホルダーに対し効果的に情報発信することである。

 今、世界中で、企業の気候変動に対するアクションが加速している。本連載では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取るべきか、どのような対外発信を行うべきなのかを考えていきたい。

第2回「気候変動対策の“主役“は、なぜ国から産業界へシフトしているのか」

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