電力損失を95%削減、工場への送電に「超伝導ケーブル」を実証導入省エネ機器

NEDOと昭和電線ケーブルシステム、BASFジャパンが工場の省エネを目的とした超電導ケーブルシステムの実証試験に取り組むと発表。民間プラントで実際の系統に三相同軸超電導ケーブルを適用した実証試験は世界初という。

» 2019年06月17日 15時00分 公開
[スマートジャパン]

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、昭和電線ケーブルシステムおよびBASFジャパンは、BASFジャパンの戸塚工場の敷地内で、低コスト超電導ケーブルシステムの実証試験を実施する。民間プラントで実際の系統に三相同軸超電導ケーブルを適用した実証試験は、世界で初めての事例だという。

 現在使われている電線には、金属(銅あるいはアルミニウム)が導体として使われており、その導体抵抗による発熱などにより送電ロスが発生してしまうため、さまざまな対策がなされてきた。その一つの方法に抵抗の低い材料を導体に使用した送電ロス低減があり、以前から“抵抗ゼロ”の超電導体を使った送電ケーブルによる、大幅な省エネルギー効果が期待されていた。しかし、超電導状態を維持するためには液体窒素などで冷却し続ける必要があり、このエネルギーとコストが大きな課題だった。冷却コストを削減し、省エネルギーによる経済効果を生み出すためには、ケーブル全体の冷却に必要なエネルギーを小さくし、低コスト化ができる技術の開発が不可欠となっている。こうした背景から三者は、低コスト化が可能な三相同軸超電導ケーブルシステムを開発し、実証試験を実施する。

 化学工場や製鉄所などのプラントの多くは、プラント内で窒素ガスや液体窒素を使用しており、実証試験ではプラント内の既存冷熱の利用により、超電導ケーブルの冷却に必要なエネルギーやコストを大幅に削減することで、高い省エネルギー効果を低コストで実現することを見込んでいる。

 実証試験では既設6.6kVの系統の一部に長さ約250mの超電導ケーブルを設置し、プラント内の既存の冷熱の利用により、超電導ケーブルの冷却に必要なエネルギーを大幅に削減することを目指す。今後、今年中に敷設工事を行い、2020年2月に運転を開始する予定だ。この一連の試験によって民間のプラントでの敷設工法、運用管理方法、省エネルギー効果などを検証し、今後の超電導ケーブルの実用化および普及につなげる。

実証のイメージ 出典:NEDO

 さらに、この技術を30MW以上の大規模電力を利用するプラント内のケーブルに適用すれば、従来の電力ケーブルと比較して、ケーブルの送電ロスを95%以上、それに伴い電気料金を年間2000万円以上削減することが見込める。

実証試験で使用する超電導ケーブルシステムは、2017年度から2018年度に実施したNEDOの助成事業「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」で、昭和電線ケーブルシステムが開発した、三相同軸型の超電導ケーブルシステムであり、交流大電力を送るために必要な3相(U相、V相、W相)が一つの軸上に積層されたコンパクトな構造が特徴だ。超電導部にはイットリウム系超電導線材を用い、各相の間には合成樹脂と紙のラミネート材による絶縁層が形成されている。

開発した超電導ケーブル 出典:NEDO

 この導体をアルミニウムまたはステンレスの波付き二重保温管に入れ、その中を液体窒素が流れる構造になっている。この構造をとることによって、三相でありながら冷却用の二重保温管が1本、機器とつなぐ端末が1組(2個)でケーブルシステムを構成することになり、これまで国内で試験されてきた超電導ケーブルに比べて使用する液体窒素量が3分の1程度となるコンパクトな構造を実現した。これによって、これまで超電導ケーブルの実用化で課題となっていた経済性が大幅に改善する。

 実証試験では、プラントで使用している液体窒素を冷媒として用い、この窒素を減圧することで、約マイナス200℃の液体窒素を作り、小型液体窒素ポンプを使って窒素を循環させる。このように、超電導ケーブルの冷却のために新たに冷却装置を設ける必要が無くなるため、冷却に必要なエネルギーを大幅に削減することが見込めるほか、冷却装置の導入コストも削減することが可能となる。

 今後、三者は実証試験を通じて、プラントインフラの更新時や再生可能エネルギー活用時の電力損失削減における超電導ケーブルの有効性を検証し、早期の実用化につなげたい考えだ。

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