蓄電器の電極材料を「もみ殻」で製造に成功、装置の低コスト化・環境負荷低減に貢献蓄電・発電機器

秋田大学の研究グループがリチウムイオンキャパシタ(蓄電器)の電極材料をイネの収穫時に発生する「もみ殻」で製造することに成功。高い性能も確認しており、蓄電デバイスの高性能化や、バイオマスの有効利用によるエネルギーおよび環境問題に貢献できる成果としている。

» 2019年09月26日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 秋田大学大学院理工学研究科の熊谷誠治教授らの研究グループは2019年8月、リチウムイオンキャパシタ(蓄電器)の正極と負極をもみ殻から製造することに成功したと発表した。性能についても確認しており、リチウムイオンキャパシタ製造時に手間のかかる工程を簡略化できる可能性があるという。

 リチウムイオンキャパシタとは、一般的な電気二重層キャパシタの原理を用いつつ、負極材料にリチウムイオンを吸蔵可能な炭素系材料を使い、リチウムイオンを添加することでエネルギー密度を向上させた、電気二重層キャパシタとリチウムイオン二次電池の性格を併せ持つもの。ただ、負極材料にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させるプレドープ処理が必要で、その製造工程は複雑だという。

リチウムイオンキャパシタの動作原理 出典:秋田大学

 リチウムイオンキャパシタの蓄電機能は、主に正極、負極、電解液で構成される。一般日、電解液にはリチウムイオン電池用のものが使われ、正極材料には電気二重層キャパシタの正負極に使用される活性炭が、負極材料には、リチウムイオン電池の負極に使用される炭素が主に使用さている、ただ、正極、負極材料とも、海外の農業副産物や化石資源に頼らざるを得ないのが現状だという。

 そこで研究グループでは、稲の収穫にともない排出されるもみ殻に着目。2013年には、もみ殻中にナノレベルで分散しているシリカを利用し、電気二重層キャパシタの電極に適した活性炭を製造することに成功している。また、これの活性炭はリチウムイオンキャパシタの正極材料として使用できるという。

 一方で、リチウムイオンキャパシタの負極材料は、リチウムイオンが多量に吸蔵された状態での構造安定性を保てることが重要になる。そこで研究グループはもみ殻由来活性炭の開発過程において、シリカを除去しない単純な熱処理で製造したもみ殻炭は、独特なリチウムイオン吸蔵放出特性を示すことを発見。シリカはリチウムイオンの還元作用を受けることで、リチウムイオンの吸蔵放出に活性のあるケイ酸リチウムが形成される、しかし、ケイ酸リチウムは多量のリチウムイオンを吸蔵放出することで、過大に膨張収縮するため、構造破壊が発生しやすく、電極材料としては寿命が不十分である点が課題だった。

 その後さらに研究を進めた結果、シリカを部分的に除去したもみ殻炭は、リチウムイオンキャパシタの負極材料として優れた性能を示すことを発見したという。もみ殻炭からシリカを全量除去せず、部分的に除去することで、ケイ酸リチウムの膨張空間を確保しつつ、リチウムイオンの高い吸蔵放出容量を生かすことに成功した。さらに、リチウムイオンをプレドープする工程において、シリカが過剰なリチウムイオンを取り込むことにより、電極上のリチウム金属の析出が抑制されることも分かった。この発見により、これまで精緻に行われてきた負極材料へのリチウムイオンプレドープ工程が、もみ殻由来負極材料を用いることで簡易に実施できるようになるという。加えて、この負極材料の製造は簡便であり、低廉な価格での提供が可能としている。

 研究グループでは既に開発していたもみ殻由来活性炭(正極)と、今回開発されたもみ殻由来負極材料を使用したリチウムイオンキャパシタセルを組み立て、その性能評価も実施した。その結果、もみ殻由来正負極材料を用いたリチウムイオンキャパシタは、従来の市販炭素系電極材料を用いた場合より、優れた性能を示したという。さらに、簡易なプレドープ処理を実施しても、繰り返し充放電に対する耐久性が非常に高いことが分かった。

もみ殻由来電極材料および市販炭素系電極材料を用いたリチウムイオンキャパシタセルの繰り返し充放電に対する安定性 出典:秋田大学

 今回の成果について研究グループは、植物の天然構造および組成を最大限利用することで、優れた性能を有する蓄電デバイスの正負極材料の両方をもみ殻から製造できることを明らかにしたもので、蓄電デバイスの高性能化とバイオマスの有効利用により、エネルギーおよび環境問題に貢献できる成果としている。今後は、正負極材料の製造条件最適化、キャパシタセルの組み立て条件最適化など、実用化に向けた研究を進める方針だ。

もみ殻による正極および負極材料の製造イメージ 出典:秋田大学

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