リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは蓄電・発電機器(1/4 ページ)

電気自動車に必要不可欠なリチウムイオン蓄電池。だが、より電池の性能を高めようとしても限界が近い。そこで、実質的なエネルギー量がガソリンに近い金属空気電池に期待がかかっている。トヨタ自動車の研究者が発表したアルミニウム空気電池の研究内容を紹介する。開発ポイントは、不純物の多い安価なアルミニウムを使うことだ。

» 2016年12月21日 09時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

電気自動車100%への道

 自動車各社は環境に適合する車両の研究開発にまい進している。最終的にはガソリン車が、二酸化炭素を全く排出しない自動車に置き換わる形だ。

 現在は燃料電池車と電気自動車が実用化されており、中でも電気自動車が市場に受け入れられている。例えば米Ford Motor(フォード)の全米における自動車販売台数(乗用車)の内訳だ。2016年11月の販売台数のうち、5.9%をプラグインハイブリッド車や電気自動車が占めている。

 米Bloombergが2016年6月に発表した予測「New Energy Outlook 2016」によれば、2040年には電気自動車の比率が新車販売において全世界で35%に到達。総電力需要の8%を占めるに至るという(関連記事)。

 電気自動車の動力源は電気であり、内蔵する電池から電力を得ている。現在はリチウムイオン蓄電池(二次電池)を利用しており、構成材料である正極や負極、電解液などの材料開発が続いている。

金属空気電池に期待がかかる

 だが、リチウムイオン二次電池の性能(容量)には理論上限があり、現状は上限に近い水準にある。「トヨタ自動車では、将来に向けて全方位的に環境車両の開発を進めている。われわれのグループは電気自動車向け、すなわち高容量の電池に関する研究を中心に行っている。現在高容量の電池としては金属空気電池が知られている。高容量の金属の負極と大気中の酸素を組み合わせることで劇的にエネルギー密度を高める機構だ」(トヨタ自動車 東富士研究所 電池材料技術・研究部 電池研究室で主任を務める陶山博司氏)*1)

 金属空気電池の性能はどの程度なのだろうか。図1に主な金属空気電池の重量エネルギー密度を示した*2)。1kgの金属に何ワット時(Wh)の電力を蓄えられるかという理論容量の比較だ。

*1) 2016年11月29日〜12月1日に幕張で開催された「第57回電池討論会」における発表「NASCN電解液添加によるAl空気一次電池負極の放電特性改善」より。
*2) Md. Arafat Rahman et.al,"High Energy Density Metal-Air Batteries: A Review" Journal of The Electrochemical Society, 160(10) A1759-A1771(2013) に掲載された数値に基づき、本誌が作成

図1 主な金属空気電池の重量エネルギー密度(理論値) アルミニウム空気電池はリチウム空気電池に次いで2番目にエネルギー密度が高い。左端に参考例として示したリチウムイオン蓄電池の10倍程度の容量である 出典:High Energy Density Metal-Air Batteries: A Reviewに掲載された数値から作成

 ガソリンのエネルギー密度は1万3000Wh/kgと圧倒的に高い。ただし、ガソリンの燃焼エネルギーを運動エネルギーに変換する効率は低く、注2の論文によれば、実際に利用できるのは1700Wh/kgだという。

 これに直接対抗できるのが金属空気電池だ。ただし、金属空気電池にも扱いにくい性質がある。「リチウム空気電池は非常に課題が大きい。亜鉛空気二次電池は繰り返し充放電によってデンドライトが生じ、電池の内部短絡が問題になる」(陶山氏)。リチウム空気電池には、電解液の種類によるものの、負極の保護層が腐食しやすいことや、過電圧(損失)が大きい、大電流を取り出しにくいといったさまざまな課題がある。

 そこでアルミニウム空気電池、それも一次電池に注目したのだという。「亜鉛やリチウムの空気電池で生じる問題が起きず、高出力で高安全な電池ができる」(陶山氏)。自動車に適した性質だ。

 アルミニウムは入手できる金属のうち、最も資源量が多い(クラーク数)。鉄をも上回る。このため、自動車に大量採用された場合、希少なリチウムに対して優位性がある。鉱石から金属を生成する際に多量の電力を必要とするものの、再生可能エネルギー由来の電力を使えば二酸化炭素排出増にはつながらない。使い終わったアルミニウム化合物は再度金属に戻すことが可能だ。金属アルミニウムの製造、再利用を含めて電池として捉えることもできる。

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