リチウムを超える「アルミニウム」、トヨタの工夫とは蓄電・発電機器(3/4 ページ)

» 2016年12月21日 09時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

電極内にミニ電池ができてしまう

 陶山氏のいう自己放電とは、負極の表面で上に示した狙った反応以外に、水の還元分解が起こって水素が発生してしまうこと(図3)。

 「水の還元分解は、アルミニウム金属中に含まれる不純物によって起こる。解析の結果、主な要因は鉄だった。鉄などの不純物層とアルミニウムの粒界層の電位差によって局部電池が生じる。アルミニウムが負極、不純物層が(ごく小さな)正極になる。電極の中で電池反応、放電反応が進行してしまうことが問題だ」(陶山氏)。

図3 自己放電として考えられる副反応 鉄不純物の上に添加剤を吸着させることで副反応を抑制できるかどうかを検証した 出典:陶山氏の発表に基づき本誌が作成

 放電残渣とは、放電時にアルミニウムの表面にたまる黒色の物質。陶山氏の研究グループは電解液として水酸化ナトリウムを用いている。研究用のアルミニウムを電解液中に放置(浸漬)しておくと、アルミニウムが溶け出し、残渣が元の電極の形を保ったまま溶け残るほどだという。これでは電池を放電したときに不具合が生じるだろう。

普通のアルミニウムを使って電池を作る

 陶山氏の研究チームは純度99%の金属アルミニウムを負極に使っている。つまり1%は不純物だ。より高純度な99.99%のアルミニウムを市場で容易に入手できるはずだ。なぜ高純度なアルミニウムを使わないのだろうか。

 「アルミニウムの純度を99%から99.99%に高めると、材料コストが1桁跳ね上がる。電気自動車への適応を考えて、99%で実現できる電池技術の研究を進めている」(陶山氏)*4)。そこで、アルミニウムの純度を上げずに、不純物の影響を抑える手法を考案した。「特に不純物の残渣については過去の報告例もないため、研究対象とした」(陶山氏)。

 不純物の影響を抑えるために研究チームが選んだ手法が、電解液に添加剤を加えることだ。「残渣の表面に特異的に吸着する添加剤を加えることで、自己放電や残渣の影響を抑えることができるのではないかと考えた」(陶山氏)。

*4) 次に紹介する添加物(チオシアン酸ナトリウム)は、純度99.99%のアルミニウムでは効果がないことを確認済みだとした。

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