金融自由化が進んでいる。すでに銀行で証券投資信託を購入された方もあろうし、証券会社で年金保険の販売が行われていることに気づかれた方も少なくないと思われる。以前は見られなかった銀行と証券会社の共同店舗も増えつつある。また、家電メーカーのソニーや大規模スーパーのイトーヨーカ堂などにより、インターネットやコンビニATMを活用した、ほとんどが無人店舗という銀行も設立されている。今後も金融機関では、保険や証券投資サービスを中心に取扱商品の幅が広げられ、貯蓄のワンストップサービス化が進むと言われている。
これまで貯蓄といえば、銀行は預金、証券会社は有価証券というように、金融機関とその商品は一対のものと一般的には認識されてきた。しかし金融自由化によって、いまでは金融機関と貯蓄商品の多様な組み合わせが可能になったのである。
金融自由化は当初計画されたとおりにすべて順調に進められてきたわけではない。2002 年4 月に予定されていた預金に対するペイオフ制度の導入は、銀行への公的資金投入問題の混乱のなかで、直前になって延期された。
ペイオフ制度は、金融機関の経営破綻の際に預金保険機構により払い戻される預貯金額の上限を、総額1,000万円とするもので、不良債権問題などで金融機関が破綻し、公的資金の投入の増加により政府負担が急増する懸念が高まったことから導入が計画されたものである。ペイオフ制度が導入されれば、預け入れ金融機関が経営破綻した場合、1,000万円を超える預貯金は預金者に帰ってこない。したがって預金者には、金融機関を選ぶためだけでなく、預金期間中の金融機関の経営状況をチェックするための目も必要になる。しかし、預金者の自己責任の原則なくして金融自由化は完了しない。規制の少ない金融市場を整備し、貯蓄者が貯蓄のリスク(元本の安全性や金利の変動など)とリターンを正しく理解して行動するようにするためには、ペイオフ制度の導入は欠かせないのである。
ともあれ、ペイオフ制度の導入は延期され、銀行などはいまだに預貯金の全額が保証されている。このためか、さまざまな金融自由化が進展したにもかかわらず、これまでのところ消費者の貯蓄内容に大きな変化は現れていない。日本の個人金融資産はGDP(国民総生産)の3 倍近くにあたる1,400兆円にのぼるものの、相変わらずその6 割近くは、身近でかつ元本が安全な預貯金で構成されているのである。
いったん延期されたペイオフ制度の導入は、2005年4 月に予定されている。今後の金融自由化の進展は、具体的に個人の貯蓄行動にどのような影響を与えるのだろうか。金融自由化先進国の米国を参考にすると、以下の3 点を指摘することができる。
第一は、個人金融資産に占める銀行預金比率の減少である。米国の場合、もともと預金に対する預金保険機構による元本保証は10万ドルまでとされている。個人金融資産に占める預金(定期・貯蓄性預金)の割合は、金融自由化が進み始めた1980年代初めに20%前後であったものが、1999年末には8.1%にまで低下した。2002年末では12.1%になっているが、いずれにせよ日本の状況と比較すると非常に小さい比率である。
第二は、証券投資信託などを含む有価証券投資シェアの増大である。2002年末の個人金融資産に占める証券投資額は34.7%であり、日本の11.3%に比べて3 倍近くにのぼる。これに加えて、銀行や保険会社などが保有する有価証券を個人の預金や保険料を運用した間接保有と考えると、なんと個人金融資産の60%近くが証券投資の形で保有されていると推測される。
第三は年金資産の保有である。米国の場合、その保有比率は26.7%(2002年末)に達し、同時点の日本の10.2%に対して2倍以上に達している。
米国の個人金融資産の構成が変化した背景としては、金融自由化ばかりでなく、金利水準の変動や株式市況の影響も無視できない。米国で金融自由化が始まった1980年代、米国では財政赤字と貿易赤字という、いわゆる双子の赤字の拡大を背景に市場金利が上昇するなかで、相対的に銀行預金金利の魅力が薄れたことが指摘できる。さらに、高齢化の進展が顕著になるなかで、1990年代後半には株式市場の上昇や401K(確定拠出型年金)ブームが、年金商品、投資信託、株式への投資を拡大させたのである。
金融自由化によって保険、証券サービスに参入した米国の銀行は、定額年金保険、投資信託の販売シェアでは現在3 割を上回っている。また、銀行による証券会社、保険代理店の買収など、金融機関の再編成がなおも続いている。金融自由化による個人貯蓄の変化は、米国の場合、かなりダイナミックであったと言えるであろう。
大手銀行を中心に不良債権問題が遠のくなかで、2005年4 月のペイオフ制度完全実施はかなり可能性が高くなりつつある。日本でも金融自由化がさらに進展すれば、預貯金などが多くを占める個人貯蓄の中身も、価格変動リスクがあるもののより高い投資リターンが期待される証券投資などへと動き始めると思われる。
また、金融自由化は金融機関と貯蓄商品の一対一の関係をさらに弱めることになろう。それは、金融機関が預金者の厳しい目に晒されることを意味する。これからは、個人貯蓄者のニーズを理解し、ITを活かした利便性の高いサービスの提供や、適切な貯蓄商品の勧誘を行うことが、貯蓄者の信頼を得るために最も重要なカギとなろう。
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