ITmedia NEWS >

BPMの基本的枠組みとIT部門の役割ITソリューションフロンティア:トピックス(2/2 ページ)

» 2005年03月04日 04時35分 公開
[郡司浩太郎,野村総合研究所]
前のページへ 1|2       

(2)パフォーマンス評価指標の設計

 BPMの考え方によれば、企業経営におけるコスト・品質・スピードの優位性獲得に向けたビジネスプロセスの改善は、日々の管理業務として継続的に行われなくてはならない。この考え方自体は、工場の生産管理においては、従来から常識的なものであった。しかし、実際には、SCM(サプライチェーン管理)の失敗によるキャッシュロスなど、工場生産以外のビジネスプロセスにおいても、パフォーマンス(財務パフォーマンス)を阻害するケースは少なからず存在する。そこで、ビジネスプロセス改善を、生産管理のみならず企業全体に拡大していこうというのがBPMの基本的な考え方である。ここで、問題となるのは、ビジネスプロセスのパフォーマンスを何で測るのかということである。

 個別作業の実行管理は、現場レベルでなされているものの、その結果が財務面のパフォーマンスにいかなる影響を与えているか、または与える可能性があるか、必ずしも明確になっていないのが実情であろう。現場における日々の改善活動は、何のために行うのか、なぜ必要なのかが明確に意識されていない。このため、管理のための管理や、見えない現場といった問題が生じることとなる。

 こうした問題に対しては、ビジネスプロセスが達成すべき目標値(結果指標)を設定すること、目標達成のために管理すべき指標(先行指標)を適切に設計することが有効である。そのための取り組みとして、BSC(バランススコアカード)などが考えられる。

(3)管理業務サイクルの確立

 企業活動を取り巻く外部環境要因、利用可能な内部リソース、技術はつねに変化している。そのなかでパフォーマンスを向上し続けるには、適切な重要計測指標(KPI)を設定し、つねにビジネスプロセスの状態を把握・評価し、問題分析・改善・定着といった活動を維持し続けなければならない。もちろん、環境が変われば、ビジネスプロセスやKPIそのものを再設計していくことも必要である。

 ビジネスプロセスの管理業務とは、ビジネスプロセスの問題を浮かび上がらせる(可視化する)ことによって、外部変化や内部変化に応じて、適宜、ビジネスプロセスを変更、チューニングし、パフォーマンス向上を追求し続けていくことである。これらを一連の管理業務サイクルとして確立することが重要であると言える。

(4)企業内IT構造の疎結合化

 従来の情報システムでは、個別最適の思想で複雑な業務ロジックがアプリケーションとして作り込まれるのが一般的であった。このため、想定されているビジネスプロセスにユーザーが適合できなければ、その情報システムは使い物にならなかったり、多大なカスタマイズ作業を要したりするなど、さまざまな制約や問題があった。BPMシステムは、これらを解消するものとして注目されている。

 BPMシステムのメリットは、企業内外のアプリケーション間データ連携を容易ならしめること、そして、人間の作業とシステム処理を一体的にモデル化・実装・制御できることである。すなわち、アプリケーションからビジネスロジック(プロセス制御ロジック+ルール)を分離し、管理可能な状態にモデル化・可視化することが可能になったのである。

 BPMシステムの基盤それ自身は、既存の企業内アプリケーションや個々の作業をつなぎ合わせていく裏方的な位置付けにあるため、必ずしも直接ユーザーの目に触れるツールではない。しかし、ユーザーの永続的改善を通じたパフォーマンス向上活動を実行する上で、ITが足枷とならないための重要な役割を担うこととなる。

BPM推進に向けた課題とIT部門の役割

 実際にBPMを実施している海外の事例などをみると、その典型的な適用領域は、5 〜10%の例外対応が全体の生産性を阻害している業務領域にあると言われる。これまでのところ、BPMが導入されたケースは、金融業界や通信業界が比較的多い。これは、業務手順の標準化や各種の規制事項が明確であり、かつその管理業務そのものが重要な課題になるからである。

 一方、製造、流通、物流分野での適用も始まっている。こうした分野では、複雑な業務処理、例外処理の多さ、伝票処理の煩雑さなどが潜在的な生産性阻害要因となっており、BPMによる改善効果が期待される領域である。今後、日本企業においても、BPMの基礎知識を深めるとともに、企業のバリューチェーンを形づくる“骨格”であるビジネスプロセスを管理し、“中枢神経”としての企業内ITの構造改革を促していくBPM活動の推進が重要テーマになろう。

 BPMは、継続的改善と変化対応を追求し続ける活動そのものである。それ故、実行に際しては、企業内の課題解決に対する“着眼点”と“仮説”が重要になる。企業経営と情報システムが切っても切れない関係にある現在、ビジネス/ITの両面から企業内ビジネスプロセスを再設計し、変化対応力を備えた経営システムを構築していくことが重要である。

 また、BPM活動の推進には、その推進主体(ビジネスエキスパートとシステムエキスパートからなる混成チームなど)が必要となろう。とくに、[1]パフォーマンス評価指標の設定および分析結果から改善プランを策定する担い手(ビジネスアナリスト)の確保、[2]ビジネスプロセスの設計作業やプロセス改善要望に対してBPMシステムの基盤上のビジネスプロセスモデルを変更・調整する担い手(オペレーションアナリスト)の確保、[3]既存社内システムからビジネスロジックを抽出・分離させるなどシステムの疎結合化を推進する担い手(ITエキスパート)の確保が課題となる。そのためには、IT部門の役割を、これまでの社内システムの開発・運用・保守といった機能から、企業全体のビジネスプロセスを統括管理する役割・機能へと移行していくことが求められるのである。

Copyright (c) 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission .



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.